マルー・クインクエ【七つの試験】・・・6

――真夜中

キョロキョロ

何処かの扉を開け左右誰もいない事を確認すると、れいりは再び部屋の中へ振り向く
「私は外で待ってるから!! 今のうちに!!」
「……御意」
れいりの視線先には男湯の脱衣所に立つソルムの姿。
扉を閉めると真ん前に仁王立ちし、逆ソルムとしてれいりは見張る
(計算だとソルムは五分くらい! それまでは死守しないと)
丈の短い宿の浴衣を着たれいりは常に着る服とあまり変わらない

――五分経過

そろそろやって来る頃とれいりは辺りを警戒し待つ

――十分経過

「………」
いつまでもやって来ない

「……ソルム?」
そっと扉を開き中を窺う

〈…これは何だ?〉
ガラコーン!
〈石か〉

(ええ!?)
湯の方では珍しい物に夢中になっているソルムがいた

「あれ? れいり!」

ぎくっ

「こんな遅くにおフロ?」

廊下からの声に緊張が走る
「あ~~…えと、りっつい達はどうしてここに?」
「こっち普段男湯だけど、今日女子貸切りじゃん? 男湯から見える景色見に来たの♪」
「温泉好きは入っとかなきゃ」
風呂目当てにやって来た『ぐら りっつい』と『ステカ すず』は、れいりと同じ濃艶派一般女子である。
各々着替えとタオルを持ち準備万端だ
「あ~~……と、今掃除中で」
「あっれー? 掃除は早朝だよ」
「――!! いや…落とし物したんで掃除ついでに…」
苦し紛れの言い訳を軽く論破されまた違う言い訳をしては、必死に中に入れまいとれいりはあたふた
「じゃ、一緒に探してあげる」
「何落としたの?」

ガラッ
「!!」

善意で扉を大きく開ける二人。
れいりは青ざめて頭の横を両手で挟んだ
(湯上がり美人!)
脱衣所で濡れた髪を拭くソルムは少し着衣がはだけ、腕には鎖がぐるぐる巻き付いている。
れいりと顔を赤くし惚けるりっついとすず。
ソルムと三人の視線が、合った

フッ

ソルムが消えると呪縛が解かれりっついとすずの体が動き、反対にれいりはピキーンと硬直が続行している
「ねえっ 今の見た!?」
「もち!!」
すずとりっついが顔を見合わせ頷き合う
「皆に報告よ!!」

だっしゅ!

「まいち様クラスの超美形の幽霊が男湯に現れたって!!」
二人は風呂を忘れ一目散に走り去り、いなくなる頃れいりは我に返った

だだだだだだ
「どこどこどこどこー!」

『長居した様だ。すまないプリセプス』
「う…ううん、服着てて良かった…」

どどどどどどどどど

「もう一回出て!!」
「見たいっ ぜひ見たい!!」
マルー女子大半が男湯目がけ走って行く。
床が抜けそうな程揺れる廊下を女子の間をくぐって歩くれいりは、まだ思い出すソルムの美しさに照れていた

         *

――次の日

〈朝食美味ですと!〉
〈そうですね、どしやさん〉

「昨晩は女子棟が随分騒がしかったの」
「何かあったですと?」
「おはようございます」
「おお、ただお」
マルー男子達が泊まる宿では、皆集まり賑やかに朝食をとっていた
「聞いてきましたら、男湯に美しい男の幽霊が現れたそうで」
「ぬ? 痴漢か?」
「いえ、すぐ消えたので幽霊と言ってます」
ただおは立ったまま身振り手振りで一丁に説明
「でもおかしいですね。これまであの宿でそう言った事は無かったのですが……その幽霊見たさに昨晩は騒然としていた様です」
アドとオフィも角に座って静かに朝食をとっている
「そこまで見たいとは…目を引く男だったのか」
一丁は話の内容に唖然
「見た女子の話だと参謀長に似てたとか」
「ふむ…まいち、もし…」
「行ってません」
「だよの…」

(ソルムか…)

幽霊の正体に気付いたいざないは、一人静かに汁をすする

         *

三の試験広場前に集合する女子。
次はどんな中身なのかと話が止まずざわついたり、井戸端会議で賑やかだ
「あ―――、私も見たかったぁ」
「確かに参謀長さんクラスの美形は見たいです」
大きく溜息するミヨシ。一晩中風呂を張っていたか寝不足で瞼が重そう。
同じく一緒に向かったイソネはすぐ戻って寝た
「今日は見られるかもよ! 最後のチャーンス!! イソネも張る?」
「…どうしましょう」
(今日は男湯連れてけないなぁ…)
試験は二泊三日の予定。
周りの会話にれいりは困って悩んでいる

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