ベス・・・1
数分前
「オチデドゥムも行ったか――」
上り坂付近の見晴らしの良い場所で、オチデドゥムが暗へ還って行くのを二人は眺めていた
「残った暗は収容済み。追って来る前に行きましょ。又違うの考えてね、プロッパ♥」
「……」
ベスは大きな鳥を腕で支えながら軽い動きで目的地へと走り出す
「羽の子達は又どっかで作れば良いし、置いてくわ」 がんばってねー
ベス達上空で待機していた約二百体の魔物が一斉に飛んでいく
ザザッ
「kch.dの魔物か」
「薬です!!」
「T! ここはオレ達が!!」
「頼んだ」
追っていたT達の前に突如現れた魔物。
一丁達が魔物を請け負いTとインはそのまま走り出す。
気配を辿り生い茂る森を抜けると突風が二人を歓迎した
「………」
現れた景色と気配が無くなり二人佇む
「プリセプ、ここより先は海だ」
眼前は見渡す限り海。陸と海の境目は急では無いが崖になっていて足場も悪い
「…逃げたか」
Tは険しい表情で海を眺めていた
「――と思ってるみたいだけど、私達は上にいまーす」 ふふ
飛行船の窓からT達を見下ろし、してやったり感のベスは楽しく笑う
「程の技術も中々ね。空と一体化して見えなくさせるなんて何処にでも移動出来るじゃないの」
腰に手を置き船内を歩くベスは自分の手柄であるかの様に得意げだ
「どうしたのプロッパ」
ガラス張りの部屋をプロパガショネムは微動だにせず見続けている
「ここにハナゾノが入る筈ダッタ」
「次捕まえれば良いじゃないの」
部屋内部は公園的な雰囲気を出し、ペットを飼育するケージ内を大きくした装いをしている。
ガラス出入口には脱出出来ない様罠が至る所に仕掛けられ、暗世界の微生物もいたりする恐ろしい構造だ
「しばらくは警戒してるし、静かにしてましょ。操縦室行ってくる」
「……」
プロパガショネムは魂が抜けたかの様にボーっとしている
ウィン
「さっ 動いて頂戴」
「………どちらへ」
「取りあえず明の三層の近くまで」
「場所が分かりません」
「何だっけ。変化界のずっと奥よ」
「かしこまりました」
「よろしく」
ウィン
「…」 ピッ
ベスは操縦室を出る。
コルチ団のNo.10は言われるままに操作を開始した
「ちょっとー、まだ見てんの?」
「うるさい、あたしゃにカマウナ!」
〈何か飲むもの〉
〈はい〉
身の回りの世話をさせる為人質として連れて来られたNo.24も言われるままに飲み物を取りに行く
「そこの透明なカベにあの画像貼っとけばいいじゃないの」
「……! メス豚のくせにたまには良い事イウナ」
「何とでも言えばー」
〈おい、反対側ハレ〉
〈はっ〉
召喚で連れて来た暗人を使いプロパガショネムは交渉時に使った画像をカベ一面に貼り付ける
「わたしはしばらくこの快適空間を楽しむわ♥ ふふふ」
柔らかいソファに背を預け腕を伸ばしては寛ぐベス。
飛行船は超ゆっくりスピードで変化世界の奥へと進んで行った
*
「T! 虱潰しに探したがどこにもおらん」
「そうか」
島を捜索していた一丁達が報告している
「海にはいない~」
ザバ~
〈うわっ〉
〈ひらい君は海におったのか〉
るい子シャチが水面から現れびっくり
「…何らかの形で逃げた事は確かだな。皆ごくろうであった。マルーへ戻ってくれ」
「はい」
Tの指示後、幹部は船へと乗り込む。
三層の住人はるうりんと一緒に先に帰り、魔物は医療船へ、暗人は後から来た兵が連れて行った
「そう言えばいざないは何処へ消えたのだ?」
「追う前まではいましたよね…」
一丁はただおと顔を見合わせ疑問
「ジン…」
インはジンホウがいない事に気付く。
Tはいざないは何か違う事をしていると思っているらしい
「先に帰ったのではないか?」
「……そう…かもしれない」
(プリセプ並みに奔放なジンが帰った…?)
「何か言ったか?」
「言ってないっ!」
こういう時だけ勘が良いTに驚き体が動く
「……戻ろう」
「~~~~分かった」
気にはなったがインもTと一緒に島を後にした
*
「~♪」
カチャ
鼻歌を奏で、自室に戻ったベスは目の前に人がいる事を知りハッとした
「初めまして。ここは素敵な場所ですねぇ、あなたの部屋ですか?」
コートを脱ぎ軽装のジンホウが窓際に立っている
「……どうやって…」
「あなたが顔を見せた時に追って来たんです。僕って意外とそう言うのに長けてまして」
「……」
実際の所追って来たのはダイヤ君だったりする
「ああ、他の人に僕がここにいる事は伝えてません」
ジンホウは流れる様にベスに話を始めた
「ただあなた達の言う“ハナゾノ”に興味があって来ただけです。僕はマルーと言う訳でも無いですし、仲介屋みたいな者でして」
ベスは扉際に立ったままジンホウの話を聞いている
「あなたなら分かるかと思いますが、僕は程の血の方が多い混ざりです。暗の力は使えません」
(……確かに、私の方が能力が上)
自分の事を説明するジンホウにベスは力の具合を確認する
「では、もう一人の方に会って来ます」
「……プロッパとは会ってないの?」
「プロッパさんと言うのですか? 会ってません。あなたが初めてです」
ジンホウは笑顔で部屋を出て行こうとする
「待ちなさい」
「あなたはこの部屋から出ない方が良い」
(あいつと会ってないなら都合がいい)
ジンホウを止めるとベスは棚からグラスを取りテーブルへ置く
「プロッパのハナゾノはろくなもんじゃ無い」
「おや、そうなのですか。期待してたのに」
ベスは右手を自傷すると血を数滴グラスに落とした
(プロッパはわたしの部屋には絶対来ない)
「代わりにわたしがあなたの面倒を見てあげる♥」
血の入ったグラスをジンホウの所へ移動させる
「飲みなさい。あなたはわたしのハナゾノに入れてあげる」
「あなたの血ですか」
「そっ 契約」
ベスはソファに腰掛け足を組む
「プロッパよりは随分良いと思うけど? 向こうは廃人同然にされるわよ」
「……」
「それでも良いなら止めないわ」
テーブルの上にあるグラスをジンホウはじっと見つめた
「プロッパさんは怖いですねぇ」
「あいつは暗殺のプロ。ソルムを餌にして第一プリセプが飼ってたの」
ベスの脳裏には、アーツェにいたころソルムが姿を現す度常にプロパガショネムが陰から覗いていた様子が浮かんでいる
「さあ、早く飲みなさい。わたしはあなたを信用した訳じゃないの」
「では」
グラスを手に取り持ち上げた
「あなたと先に出会えた事に感謝しましょう」
ジンホウは笑顔でベスを見た後コクと血を飲み干した。
ベスはその様子をほくそ笑んで眺めている
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