マルー・クインクエ【調査開始】・・・1
――ウフビスーブテラ(地下都市)
「プロドゥとイクセスはまだ帰って来てないの!!?」
程で言えば見た目五十代の女三人が、前に並ぶ若い衆と話し合いをしていた。
一人の女は腕組みしキリキリしていたが、他二人は化粧をしたりのほほんとしている
「入った所まではいたんだけどね」
「ビイスに散り散りにされました」
「プロドゥの事だからイクセス連れて村観察にでも行ったんじゃない?」
若い衆はあっけらかんと話す
「――ま、いずれ戻るでしょ。仕方ないわね」
腕組みしてる女もいつもの事だろうとそこまで問い詰める訳でもなく溜息を吐く
「んじゃ、バロのとこ行ってくる!」
「今日は起きてるって」
「程々になさい」
「うん」
“バロ”と言う名の人物に会いに二人が走って行くのを軽く注意していた
「ウェル、あの子の様子見て来て」
「はい」
まだ残っていた一人が三人に言われ頷くとその場から出て行く
「ハナエンとウェルにしか懐いてないが楽しみだね」
「あの子が成長したらここはまた大きくなる。そうなったらバロには帰って貰おう」
「そうね」
三人の重鎮はウェルが様子を見に行った輩に大層期待している様で顔が綻んでいた
「いずれ帰って来る偉大なる父パーテは、大きくなったこのウルビスーブテラをきっと喜んでくれる!」
腕組みしてた女が拳を作り残っていた若い衆に力説
「それまでには何としても一族の“宝”をビイス達から奪還するのよ!!」
「お――!」
皆、気持ち新たに一致団結した
*
バクバクバクバク ムシャムシャムシャ
食いっぷりの良い子供を前に、品の良い女性が正座し微笑ましく眺めていた。
そこに仕切り布を開けてウェルがやって来る
「お帰り、ウェル」
「おお、ウェルか。宝はどうだ?」
「いつもの事だ」
ウェルは二人の間に座り胡坐をかく
「して宝とは一体何なのだ? わしは幻獣が宝を持ってると聞いた事はさっぱり無いが」
子供は片側に髪を結い上げポンポン状になっている。左腕には変化界特有の丸い模様があった
「わたしにも分からん。昔から言われ続けてるだけだ」
ウェルはやれやれと大きく息を出す
「分からない宝の為によく続けられるのぅ。わしならとうに諦めてる」
「もう飽きているが習慣だな」
山盛りの食糧をウェルは掴み食べ始めた。子供も休む事無く食べ続けている
ふぁ~~~~
ふと、子供の前に香りが漂った
「鼻が曲がる――!!!」
急いで鼻を塞ぐと隅に行き蹲る
「ごめんなさいね。風向きでどうしても入って来ちゃって」
女性は仕切り布を閉めなおした
「そこまで臭いか?」
「お前達の鼻がどうかしてる! 糞尿臭い方がまだましじゃ!!」
気にならないウェルに抗議
「皆この香水気に入って付けてない方が少ないのよ…」
「最近来た程の奴だろ? 名前……覚えてないな」
違う広場では皆こぞって香水をかけていた
「一族以外の人も受け入れてるから、随分人も多くなったものね」
「これさえ無ければ良き所なのに……」 うう…
隅で背中を丸めた子供はより小さくなっている
「では、小若用に部屋造って貰いましょう」
「――! 良いのか!!」
女性の提案に明るくなった子供(小若)は振り返る
「自分用の部屋が持てるとは感激だ!! 今まで兄者達と一緒で肩身が狭かったのだ!!」
「小若の願いなら皆叶えてくれますよ。ウェル」
「言ってくる」
「ウェル、昼寝の後稽古に付きおうてくれ」
「分かった」
ウェルは立つと先程いた場所へ向かう
「さ、お休みしましょう。小若」
「うむ」
小若は女性の膝に頭を乗せニコニコ
「ハナエンは良い奴だ。母とはこう言うものなのかのぅ…」
「…」
眠りにつく小若の頭を優しく撫で、ハナエンは慈しみの目で見続けた
*
マルー派長室
「パーテに話を聞いてみたが、幻獣の地にあるのは我ら一族の“至高の宝”とだけ言い明確な内容は分からなかった」
れいり、いざない、ディックが集まった室内で、暗世界から戻って来たTが説明
「結局そいつも何か分かんねーんじゃね?」
「かもしれぬ」
大体の予測をつけたいざないが呆れ口調
「ウルビスーブテラの捜索は取りあえず典型派と全体派に任せ、引き続き捕縛を続けて欲しい」
「分かった」
簡単に話を済ませ次の準備へ取り掛かる
「…つーか、あいついねーから追尾出来ねーのか」
「ジンはどこへ?」
「調べもんあって今日パスって言ってた。二~三人捕まえて来るさ」 んじゃ
いるのが当たり前になったジンホウがいない事に気付くT
「いざないさん、でしたら途中まで典型派と同行して下さい」
「……うす」
れいりがハッとした
「ちょっと待って!! 荷物取って来る!!!」
ダイヤで移動が出来ない事を知るとれいりは急いで部屋へ走って行く。
その間待つ事になったいざないは怠そうだ
*
「りっつい見た見た!?」
「うんうん!!」
混溶界収容所の入口では、その場に似つかわしくない黄色い声が沸き立っていた
「すっごいイケメーン」
「入るんですか、入らないんですか?」
「誰かに会いに来たのかなー」
入口にいる警備員の声さえ聞こえないミヨシとりっついは大いに騒ぐ
「向こうの建物行った――追い掛けたい❤」
「行ってみる?」
「閉めますよ」
ガチャ
「あっ 入ります!!」
やっと気付いた二人はそそくさ入って行った
別棟で警備員が一人の女性を監視カメラを通して数回映している。女性は堅い表情で黙々と作業をしていた
「面会されますか?」
「……………いえ」
女性を静かに見ていたジンホウは静かに断りを入れ収容所を後にする
「…聞いた方が早いですが、いざない君を連れて行った方が面白いかな」 くす
ジンホウはイタズラっぽい笑みを浮かべ楽しそう
ぞわっ
「どうしたいざない?」
「寒気が…」
「風邪でも引いたか、珍しい」
得体の知れない寒気がいざないの体を襲い、腕を組んで身震いしている。
全体派、典型派と一緒に混溶と変化を往復する定期船に乗り込むと、いざないは一丁達の船室で座って到着を待っていた
「…今まで引いた事ねーすけど……」
ワイワイ キャッキャッ
「大事にこした事は無い。少し仮眠しておれ」
「…うす」
隣の船室から賑やかな声が聞こえる
「女性陣はDがいる分賑わってますね」
「…」←い
「……………」
ただおの一言で一丁の目付きが変わった
「すごーい。のの子見てるだけでお腹一杯になっちゃう❤」
「べし!」
バクバクバクバクといつまでも止まない食いっぷりにディックは喜んで見ている
「D、外に出てみませんか? 風が気持ちいいですよ」
「うん!」
三層に行くついでに同行したるうりんがほんわかとディックをお誘いに来た
「またね。みんな!」 ガラガラ
手を振って見送る典型派。のの子は食事に夢中
「…るうりんちゃん……」
二人が通路を楽しく歩く様子を一丁は扉から恨めしそうに覗く
「れいり! やはり副リー…今はふありさんとDはそう言う仲なのですか?」
「え?…ど…どうなのかな……」
聞いてくるイソネに汗
「ふありさんの近づくなオーラが凄いのですよ!」
「はは…」
「付きおうとるね。あれ」
「うん」
答えに詰まり愛想笑い
「で、れいりはよろしいのですか?」
「何が?」
「副団長さんです」
イソネは次にれいりへと変更
「おきまりさんと共謀してたと最初聞いた時はびっくりでしたが、れいりが副団長さんと付き合うと聞いてやっぱりなと納得したんです」
やれやれ感のイソネに戸惑う
「ふありさん達の様に散歩にでも行かれたらどうですか?」
「……そういやリハビリらしいリハビリ最近してないなぁ」
「?」
思い出したれいりは困った様に眉を下げ上目遣い
「あ、ううん。こっちの話。じゃあ声掛けてくるね」
「はい」
皆に断り船室から出て行く
ガラガラ
「いざないー、時間あるなら散歩いこー」
〈んなっ〉
やって来たれいりに一丁が驚愕した
「…………」
「…? 忙しいの?」
「…いや」
刺々しい視線と圧力を近くで感じるいざない
「るうりんさん達前行ったから後ろデッキ行ってるね」
何も気付かないれいりは通路を確認して後ろデッキへ歩いて行った
ガラガラ ピシャン
「まだ仮眠じゃないのか? いざない」
「…………ちょっと風当たってくるっす…」
いてもいなくても地獄と判断したいざないはそそくさと船室を出て行った
ピシャン
「ぐ…ぐおおおおお」
「嵐はダメですって団長!!」
嵐を掴む一丁の手に力が入るが、ただおが必死に止めている
『暗並みの嫉妬振りだな。トゥロボの血は』
〈白い波立ってる!〉
(ししょー、ソルムの存在忘れてんだよなー)
流れる白波を楽しく目で追うれいり。
ソルムの感想に答える事はしなかったいざないだが、肩を落とし項垂れていた
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