マルー・クインクエ【調査開始】・・・2
船着き場に到着すると、降りて来た典型派は見知った顔がいた事に気付く
「ミオカさん!」
「イソネか。のの子も久しいな」
「べし!」
かつてイソネの上司だったミオカは船着き場から降りて行く人達を確認しては眺めていた
「警備隊がここまで来ると言う事は何かあったのですか?」
「警備隊抜きで自分一人の行動だ」
「?」
「隣の集落で先日奇妙な出来事があってな」
典型派はミオカの話を聞きに集まって来る
「一人の男が姿を消したと思ったら忽然夜に現れて『この村を出て行く』と言って再び村から去って行ったんだ」
腰に手を置き歯に物が詰まった様なすっきりしない顔をする
「引き止めようとした奴らは眠気に襲われ朝までその場で寝てたって話だ」
「…自分から出て行くと言ったのなら別におかしくは無いと思いますが」
イソネの言葉にのの子も食べ物を咥えたまま頷く
「そうだな。てんしん家もこの地を捨てたとして取り扱ってる」
「ではミオカさんはどうして?」
「自分はそいつと付き合いがあってな」
船から降りて来た全体派も典型派とミオカに気付いて寄って行く
「夫婦なりたてで数ヶ月後には子供も産まれるって言うのに、嫁さん捨てて出て行くとはとうてい思えないんだ」
離れた場所では『こっちですよー』と帽子を被り旗を掲げたガイドが団体ツアー客を率いて歩いていた
「そいつはそんな薄情は奴では無いと自分なりに調べ始めた。――で、最後に会った奴らの話だと」
「そいつの目は、虚ろだったらしい」
「…操られていたと言う事ですか?」
「それは分からんが似てるんだ」
「何とです?」
ガイドは団体客をミオカ達の近くに待機させ、一人だけ建物の奥へ入って行った
「よ小若を引き止めようとした門番が眠気に襲われ朝まで寝ていた事と」
のの子の眉が微妙に動く
「…よ小若はその後」
「戻らんと言ってそれっきり。てんしん家は四男はいないものとして処置済みだ」
話を聞いていたイソネが尋ねるとミオカは視線をのの子に移し声のトーンが下がる
「のの子には悪い報せだな…すまん」
「……」
のの子は無表情で前方を見ている
「よ小若って何だろ…」
「…のの子の息子」
「え!?」
後方で話を聞いてたれいりがいざないの答えにびっくり
「実はこれだけじゃない」
「え?」
「二十数年前にも一人の男が出て行くと言って、止めに入った奴らが寝てた事があった」
「止めに入った人は全て寝てるのですか…」
「これをただの失踪と思えるか?」
「………」
イソネも典型派も疑惑が沸き眉を顰めた
「それを聞くと白とは思えないですね…」
「と言う訳だ。てんしん家も警備隊も動かないから自分だけで動いてる」 動きようが無いんだ
建物の陰からミオカ達の様子を窺う影
「それでお前達はマルーの仕事か」
「はい」
「外の者と関わるなと言われているがマルーには一つ借りがある。何かあれば一回だけ力を貸すぞ、ではな」
「はい」
ミオカは一通り出入りする人達を見終え森の奥へ歩いて行った
「のの子…」
不安そうなハギ等を前にのの子はバリンと煎餅をかみ砕く
「野垂れたらそれだけの子べし! 行くべし!!」
のの子は歩く足に力を込めズシズシと悪路を走るバスへ乗り込んだ
(のの子さん…)
出発するバスをれいりは悲しげに見送っている
*
「なあ、ウルビスーブテラについて何か知ってたら教えてくんねーかな」
各々別れビイスの所へ着いたいざない達は奥からやって来たカウザに尋ねている。
今日のビイス達は制服や眼鏡を掛け学校スタイルをしていた
「…外の者も招き入れ大きくしてると言ってたな」
「は!?」
戸惑ういざない
「外の者って程か!」
「そうだ」
「皆訳ありの奴らだと言っている」
「…ヤベェぞ、五十どころじゃねー気がしてきた」
「混ざりは五十くらいだ」
「…」
それでも多い事にぐったり
「場所さえ分かれば…」
「人が近づけぬ場所に結界があり、そこから地下に行くそうだ」
「!」
「じゃ、危険な場所なんだね」
「その様だ」
ディックの言葉にカウザは同意
「…てか、意外に詳しくね?」
「お前達が我に聞かなかっただけだ。ここに来る奴らは良く語る」
「じゃあ、混ざりの人はどんな人達ですか? 強い人とかどれくらい…」
れいりも気になった事を聞いてみる
「パーテの子が五人いる。他はこの地の男との子だ」
「1/2が五人か」
「強さは分からぬ、すぐ追い出すからな」
五人と言う数を反芻するいざない
「この地って…変化の人?」
「昔一人の男を釣り、法で逃がさぬ様にし何人か生まれた様だ」
カウザは表情を一つ変えずに話し続ける
「程よりは変化との子の方が能力があると思っての事らしいが、悪く言えば家畜扱いだな」
「…………」←い・れ
言葉に詰まる二人
「種馬か。王族には良くある話だな」
「加護が水牛と言っていたから種牛だ」
「…そこ訂正すんのか……」
ソルムの言う事を言い直すカウザ。無表情な二人の掛け合いにいざない汗
「そう言えば最近新たに男が釣れて喜んでいた」
「!」
ハッとするいざないとれいり
「あのっ カウザさん! もしかして男の子がいるって言う話は…」
「……さあ。聞いた事は無いが本人達に聞く方が早いかもしれない」
カウザが場の雰囲気が変わった事に気付く
「来たぞ」
「!」
我先にカウザとビスが走って行き、いざないが後を追った
*
「プロドゥ、イクセスに次いでプーレ、ファクシオ、スプリーが戻らないのはどう言う事!!?」
「さあ? 私吹っ飛ばされたし分からない」
「同じく」
「同じくだ」
地下都市では戻って来た人数の少なさに重鎮の一人(マーニャ)が怒っていた
「三人も遊び歩いてんのかね?」
「まったく。これからって時に…」
「三帝柱!」
「どうした、ぬう?」
「しばらく上での行動は自粛した方がいい。警備隊の一人が嗅ぎ回ってる」
「!」
帽子を被った軽装の女がやって来る。
ぬうはあの時乗船していた団体客を率いるガイドであった
「小若とこの前の男の事で目立ち過ぎたんじゃない? バロの事まで気付いてたよあいつ」
「じゃあ戻って来ない五人は変化に捕まっちまったとか?」
三帝柱と呼ばれている重鎮はぬうの言葉に戸惑い動揺の色を出す。
今言葉を発したのはインペリウムと言う
「それは分かんないけど」
「ビイスの所も自粛するか?」
「んじゃらその間は新しい男の所行ってていい?」
「…………………」
ウェルの一声に一緒に吹っ飛ばされた女が喜ぶ
「…そうだな、しばらく控えて様子を見よう。変化の所にいるなら五人は戻って来るだろう」
髪を編み込んだ一人の帝柱(アウクトリタティス)が腕組みし結論を出す
「ぬうはそのまま情報を集めておいで。五人の事も頼んだよ」
「分かった」
ぬうを見送りながら三帝柱はニヤリ顔
「こういう時ぬうは便利だねぇ」
「バロと程の子で普通に外歩けるものね」
マーニャとインペリウムはぬうの利便性の良さに期待を込め頼もしく見ていた
「ま、いいわ。あなた達は当分自由に過ごしなさい。ウェルは小若を頼んだわよ」
「はい」
〈わ―――い!!〉
ウェルは小若へ、他二人は新しい男の元へ走って行った
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