マルー・クインクエ【逃走】・・・2

「今度は何で切れてんだ!!? つか、さっきよりでけーぞ!!」
応援に駆け付けたいざない、一丁、まいち。いざないと一丁は荒れ狂う火塊を見てギョッとなる
「ししょー、さんぼーちょー、片っ端から捕まえて避難させてくれ!!」
「あ…ああ」
「はい」
飛び交う火に抵抗出来ない男達は座り込み恐怖に慄く。一人の男は『大魔王…』と言い放ち硬直状態だ

ヒュンヒュン ドゴドゴーン

「いざない君、ここが一番最下層らしいよ」
「それがどうした!?」
岩の窪みに腰掛けていたジンホウは楽しげに見学していた
「残ってても厄介だし、このまま炙り出しもありかなって」
ジンホウの言葉に少し考えた後れいりが放つ火を見ている
「あいつの火で?」 それだと足んねーぞ
「煙でも充分だと思います。何かの衝撃とかあればですが」
ドゴドゴと火塊が岩にぶつかり落石する中、れいりの後ろに立っていたソルムが二人の会話を聞いていた。
れいりは崩れた洞窟を背に立っていたが、その真横でひっそりと身を隠し、れいりを見てタイミングを窺うガウンがいる
「いざない、プリセプスを見てて欲しい」
「おい! 何を」
ソルムがれいりから離れると、いざないは恐る恐るれいりの後ろに立つ
(ここは安置か…)
狂戦士のれいりを身の竦む思いで眺めている

バッ

ガチッ!
「!!」

れいりを掴もうと手を伸ばすが、届く前にガウンは拘束された
「気付かねー訳ねーだろ!」 なめんな
呆れ口調で捕まったガウンを睨むいざないは息を吐く
「まあ、それした所で彼女には効きませんよ」
「!」
ジンホウもガウンの動きを読んでいた為至って冷静だ
「それを作った明人と同じ血を持ってますし」
腕付近を拘束されたガウンは足がふらつき前に倒れ込む
「反対にあなたの顔が失ったかもしれません。捕まって良かったですね♪」
「どう言う事だ?」
「彼女がディレイです」
「何!?」
「僕が説明するより“人相術”の方が良いでしょう?」
からかわれている事にムッとするが、そのままガウンをじっと見続けた
「…………」
いざないの顔色が悪くなっていく
「とんでもねぇ…」
「余罪はどれくらいです?」
「十~二十なんてもんじゃねえぞ」
「それは凄い。元々この異物は明人にとっては遊び程度の物だったんでしょうね。あくまでも明人にとってはです」

「…」
動いていたソルムが立ち止まり頭上を眺めている

「相手の姿になってもすぐ戻る事が出来るごくごく普通の道具」
ジンホウの脳裏には明人同士が向かい合って笑い合う姿がいた
「それを程が使うと、異物を扱った者のみが意識を保つ事ができ、相手は記憶を失う。あげく元の姿にも戻れない」

「負の連鎖が永遠と続く恐ろしい異物となる」
マイペースなジンホウだが瞳は伏せがちになりどこかしんみりしている
「――ま、僕も危険ですのでディックさんか黄金の死神に外して貰いましょう」
「…」

ボトボトボトボト

「…!?」
異様な音に振り向く
「これくらいの数であれば衝撃が与えられるだろう」
天井には穴が空き、無数の爬虫類群が滝の様に流れ落ちて来た。
ソルムは出所を探していた模様
「途方もない数ですね」
「…………………」
嫌な予感満載のいざないは青ざめを通り越し混乱一歩手前まで来ていた
「全員上に出してからやってくれよ!!!」
爬虫類はれいりの怒りに反応しうぞうぞ合体していく
「ししょ―――!! 急いで!!!」
「クーペレ!!?」
驚いた一丁もギョッとなり動きを速めた

ズズズ・・・ズン
変化世界全体が揺れる

わーわーわーわー ガラガラガラガラガラ

崩壊していく居住区。騒音と落石と煙に巻かれ皆駆け足で逃げて行く
「ある程度埋まったらプリセプスを連れ上に行こう」
「何つーめちゃくちゃな…!!」 ピッ

〈ただお! 今すぐ外へ出ろ〉
いざないは機器を使い毒沼付近にいるただおに声掛け
「では、お先に」
ジンホウは焦る様子もなく皆と一緒に外へ向かう

〈いざない!〉
〈おす!〉
〈来るんだ!〉
取り締まり隊も必死に住人を連れ出している


変化世界地上では棘山入口、毒沼入口、猛獣入口から空に向かって煙が昇っていく


ボト ボト ボト…

クーペレから解放された爬虫類が慌てて隙間へ逃げて行った。
まだ怒り目だったが、れいりに疲れが見えはぁはぁと呼吸が荒い
「…」
ふいに目が素に戻る
「あれ? 皆は」
「地上にいる」
変貌した周りの景色を全く気にせずキョロキョロ見回す
「ジンホウさんは」
「無事だ」
「…良かった」
安全と知り胸を撫で下ろす
「すぐ部屋で休んだ方が良い」
「…でも、皆の所に行きたいかな」
装備をし、和やかにソルムの前へ
「まだ動けるのなら連れて行く」
「うん、お願い」
れいりはソルムの袖を握った
「捕まるね」
「…御意」
れいりとの信頼関係が良くなった事にソルムも嬉しく思い、優しくれいりを見て微笑んだ(れいりはソルムを見ていない)

ヴォン

この記事へのコメント