マルー・クインクエ【連行】
「…えらい目に遭った」
「猛獣区域捕まったそうです」 ピッ
「毒沼区域も滞り無いようだの」 ピッ
一丁とまいちが連絡してる間、いざないはぐったりと肩を落としジンホウは棘山入口から出る煙を見て楽しんでいた
「船で連れ帰るのか?」
「船と空です」
「そうか」
取り締まり隊と住人の後ろを歩く一丁とまいち。
追っていざないも行こうとしたが、視線を感じ振り向いた
「どうしました」
〈お二人ともお疲れ様です〉
〈るうりんちゃん❤〉
二人の所にやって来て労うるうりんに一丁のテンションが上がる
「あれ、カウザじゃね?」
「おや、様子を見に来たのでしょうか。幻獣の森まで揺れたでしょうし」
「…」
木々の間からこちらを見るカウザ。
ジンホウの一言にいざないは汗
ピタッ
「…! これは」
先を歩いていた取り締まり隊の動きが止まる。
進行方向に数千はくだらない数のドコウチイが折り重なる様に密集しこちらの様子を窺っていた
「ドコウチイに囲まれて先に進めません」
ドコウチイは取り締まり隊との距離を取り、回り込む様に広がっていく
「困りましたね」
眉を下げ悩むるうりん
「皆の者、少し後退するんだ!」
立ち往生する一行の間をかいくぐり先頭に立った一丁は颯爽と嵐の柄を握る
「こちらに来ませんか」 下がって下さい
「なに! 来たら来たで何とかなる!!」 アッハッハ
「いや、来たらマズイっす!」
一丁から離れるよう促し、平然と対応するまいちにいざないは大いに焦った
「さあ、存分に発揮するがいい」
「まっ…」
ブン
「我が宝刀『嵐』よ!!」
止める事が出来ず、剣先から風が現れると、巻き込まれたドコウチイが上に旋回していった。
様子を窺っていたカウザは現れた風に目を見張り、瞬く事もせずに竜巻を見続ける
「へぇ、あれがドコウチイですか。興味深い」
ぎょっ
「一丁さんの武器!?」
くるくる回るドコウチイを興味津々で見てるジンホウ。
丁度居住区から出て来たれいりは眼前の竜巻に驚き硬直した
「れいり君、ソルムさんお疲れ様です。ありがとうございました」
「無事で良かったです、ジンホウさん」
ジンホウの元気な姿を見て安堵する
「………嵐……大丈夫なの…?」
「……祈るしかねえ」
不安たらたらでドコウチイと竜巻を目で追っている
「やはり上手くは扱えぬのか」
「風を出す事は出せるが…それっきりっつーか」
引き気味で竜巻を見るいざないは苦笑い
「荒野の様に開けてませんしね。ちょっとしたすきま風で方向転換してこっちへ」
バキバキと木を倒した竜巻が寄って来た
「来ちゃいましたね♪」
「逃げろ―――!!」
踵を返し逃げ惑う。押し合いへし合い進むせいか逃げるに逃げられず、一人が転ぶとドミノ式で転んでいく
ゴオ!
「!?」
突然現れたもう一つの竜巻が嵐の竜巻とぶつかると、一つに重なり流れに沿って向こう側へと行ってしまう
「タイミング良くもう一つの風で向きが変わりましたか」
風が去った事に皆安心し、小さくなる竜巻を見送った
「でもすごいタイミング…」
「そうですねぇ。他の誰かが法を出したかの様な風でした」
「……」
ジンホウの言葉にふと思い出したいざないは木々の間を見ると、まだカウザがこちらの様子を窺っている事を知る
「運はオレに味方してくれた! 道ができ彼奴も消えたぞ!」 アッハッハ
「行きましょうか」
ドコウチイを一掃出来た事を誇らしげに語り喜ぶ。
一丁は歩き出す住人と取り締まり隊を見ながら再び最後尾に付き歩き出す
カウザは一丁の腰に収まってる大きな大剣を寂しげに見つめていた。
一瞬のカウザの思考が視えたいざないは衝撃を受け立ち竦む
すっ…とカウザは静かに去って行った
「いざない君、カウザさんはまだいます?」
「…いや、いなくなった」
「カウザさんいたんですか?」
微動だにしないいざないを気にするジンホウ。
聞こえたれいりも足を止めた
「大地が揺れたので見に来たのでしょう」
「地震あったんですか!」
「……」
元凶が驚く
「さて、僕は一足お先に戻りますがれいり君も来ますか?」
「あ…」
「プリセプスは休息が必要だ。共に行く」
「はい」
戸惑うれいりに即決ソルム
「いざない君は――」
「俺はこっち残る」 拘束とらねーとだし
「分かりました」
ダイヤで帰ろうとしたジンホウだが、船着き場近くまで来て集団の動きが止まるとある事を思い出す
「少しお待ち下さい」
取り締まり隊に囲まれた人物に近づく
「ガウンさん」
「あなたは『陽の当たる所では似つかわしくない』とおっしゃいました。確かにそうかもしれません」
ジンホウは後方から聞こえる声に楽しそうに微笑んだ
「ですが僕はどうしても陽の当たる所が似合う人達を好きになってしまうんですよねぇ」
〈そんなに揺れた?〉
〈良く分からぬ〉
間の抜けた二人の会話が楽しくて仕方ない
「と言う事で、僕は敬愛する姫君の所へ戻ります。さようなら」
ジンホウの笑顔は今まで見た事の無い清々しく陽に照らされた様な美しい顔だった
(………いつの頃からか、上の空が多くなってたけど…………あの娘だったの)
去って行くジンホウの背を翳りのある伏せがちな目で追っている
「お待たせしました」 ダイヤ君
(例えるなら、光照らす雄々しい獅子ね)
取り締まり隊に促されガウンは船へと歩き出す
ピュー
「…ダイヤ君?」
陣を作る前にダイヤ達が岩と木の隙間へと飛んでいく
「あ、鉱石!」 きれー
「今の揺れで出て来たのでしょうか」
バスケットボールの半分くらい突出したキラキラ光る黄色の鉱石をダイヤは食い入る様に周り込んで眺めている
「それで良いです?」
〈すっごい嬉しそー〉
振り返ったダイヤ達の目がキラキラ。
れいりも感情表現豊かなダイヤを見てほっこり
「分かりました。必要な分だけ切り出して研究室へ送りましょう」
ジンホウのゴーサインの元、ダイヤは戦闘モードに入った
シュタ! ポコ
目にも見えない速さでカット。
切り出した鉱石はソフトボールくらいだ
「……そんなにいらないんだ」 小さい
「エコなお腹してます」
ジンホウは鉱石に『ダイヤ君の石』と書いた紙を貼り付け先に研究所へと送った
「さて、参りましょうか」
「はい」
ご褒美にありつける期待感にダイヤはほっぺを赤くしウキウキしてジンホウ達の周りをくるーんと回る
この記事へのコメント