マルー・クインクエ【真実】・・・1
暗世界。轟々と唸り空高く昇る風を数キロ離れた邸で冷ややかに見つめる女性の姿があった。
床に付く程の長い髪をした女性の側には、法で書かれた紙に囲まれて咲いている萎れかけの花が花瓶に生けられている
「女帝、いさい殿がお見えです」
「……十日と九時間二十二分三十七秒の遅刻だ!!」
「!!」
そそくさと部屋を出て行くも、いさいを見る目は怒りを含み厳しい口調だ
「抜けられない事情あったし、ホレ!」 相変わらずの秒刻みだし
ポト
「聞き飽きた!!!」
いさいが程から持ってきたある物を渡してる最中、花瓶に生けてあった花びらが床に落ちて行く
*
「洞窟ですか」
れいり達はカウザとビスの姿を追い、洞窟の中へと続いた
「…」
「ジン? どうしたの?」
通路の端に捨てられていたある物に気付き、ジンホウが足を止めて眺めていた
「いえ」
「あいつらの言っていた宝とはこれだ」
「!」
足を止めカウザとビスは振り返る。二人の後ろには洞窟一面にびっしり積み重なった大きな鉱石の山があった。鉱石の山には三体のビイスが座って皆を見ている
「不思議な色の鉱石…」 うわ
「見た事の無い石の様ですが」
水色、青、黄色や赤とも言える淡い色が混ざった鉱石の山にれいりは目を大きくし見入っている
「………………これ…オレ・アエテルナだよ!!」
「え?」
気付いたディックは驚くと暫く固まっていた
「フォートゥスにあるあれですか」
「うん! 明でも採れるのはほとんど無いのに…あっても小さいし、こんな大きいの見たの初めて」
驚きと興奮が入り混じり、ディックは焦っている
「明で採れるのは回収しきれなかった物だ。この石はここでしか生育しない」
「!」
「…この石を何かに利用しているのか」
「うん! 難病の程の子供達をオレ・アエテルナの中で照射させて治療出来る日まで待ってて貰ってるの!」
カウザの問いにディックは素直に答えている
「……明の力で?」
「そうだよ」
会話を聞いていたいざないの顔が曇り出す
「…なるほど、これで全て理解しました」
ジンホウも視線を落とすと、ある結論に行き着いた
「カウザさん、あなたはやはりエイウスなんですね」
「…」
何も言わないカウザは無表情で皆を見つめている
「…前にもその言葉聞いたけど…エイウスって何だろ?」
「……明暗に分かれる前の人種と言われてる」
疑問に思い呟くれいりに答えるソルム。ディックは鉱石に近づき顔を赤らめ感動していた
「へえ~、明暗の…」
ソルムの言葉を復唱し、何となくぼんやりしている
ぎょっ
「え!?」
「だ…だって明暗の前って……」
「何万年前になるんでしょう♪」
「……!!!」
気付いたれいりは驚愕し汗だくに
「………カウザさんて何歳…………」 千年どころじゃ…
「分からぬ。我は何も考えない様にしている」
「……」
感情の読めないカウザは虚ろな瞳で鉱石を見つめた
「我のする事は、この石がこれ以上育たぬ様ここにいるだけだ」
「離れると育つのですか」
「そうだ。法で成長する分を吸収している」
「その結果、カウザさんとビス君達はずっと生き続けてると言う訳ですね」
「…そうだ」
「……生きた人柱とでも言うのでしょうか…」
ジンホウはやり切れなさを感じカウザとビイス達を静かに見つめている
「元々我々は、この石を守る一族だ。ここに来ようとしてた混ざりも一族の末裔で間違いないだろう」
天井まで届く鉱石を見上げながらぽつりぽつりとカウザは話を続けた
「本来なら代々と跡を継ぎ守っていけば良かった」
「だが、それは叶わなかった。この石の恐るべき力に魅了され手に入れようと一族同士の争いが起きたのだ」
れいりもディックも静かに聞くが、眉を下げしんみりしている
「同じ血を分けた者同士――……何と愚昧で情けない事だと……我は恥じた」
話してる間にビスがビイス達に加わり、鉱石の間を飛び回り出した
「…我は当時、この石を任され合間を見ては法の開発をしていた」
「カウザさんは開発者でもあるんですね」
「人々の生活が楽になればと、色々と試していた」
「来る時見かけた器材の破片はそれでですか」
「…必要なくなり捨てていた」
〈どこにあったんなもん…〉
洞窟途中にあった物体の意味が分かりジンホウは納得するが、いざないほジンホウの目ざとさにタジタジ
「…あの時も我は法の試しをしていた……」
「……?」
「同胞の数人が侵入し、石を奪いに来た」
昔の事を語り始めるカウザの顔色が次第に沈んでいく
*
「風の法を使えるのは一族でもごく僅か。追い払う事は出来たがその時我はそいつらに言ってしまった」
『争う事しか出来ぬこんな一族など』
『血などいらぬ―――』
『ここにある土地、人、全て』
『消えてしまえばいい―――』と
「法を避けて襲ってきた奴に我は切られ」
襲い掛かって来た数名にカウザは怒ると法で迎撃している
「我の血は、石に降りかかった」
赤い鮮血が石一面に飛び散り、そこを見たカウザの表情が一変した
我は気付いた
カウザの血が石に溶け込むと小さな粒子となり上に昇って行く
(我は今、法を作っていたのではないか――)
舞い上がった粒が集まり出すと渦を巻きだした
(我は…今、何と言った―――!?)
カウザの攻撃をかいくぐり石を手にした一人が竜巻に飲まれると、一瞬で砂状になり風に取り込まれる
『ここにある』
『土地・人・全て』
『消えてしまえばいい―――』
「石は粉となり風と一体化すると、制御不能な法が出来上がった」
側にある石を次々と削り取り、吸収しては大きくなっていく竜巻。
カウザは目の前の惨状を見ている事しか出来なかった
話を聞いていたいざない達は驚きと困惑で言葉を失っている
「あの風…法だったのか………異物にも近いな…」
「カウザさんがエイウス以上に驚きました」
「我は探した。あの風を止める術を幾度となく…」
その後、カウザから離れた風は各地で猛威を振るい混沌の世界へと進んでいく
土地は動き削られ、風の勢いは増す
風を目の前に逃げ惑う人々。
その間に立ち竦み悲痛の表情で風を見るカウザ
止められ…なかった……
我の言った事を忠実に守る。全てを消す風
一族も皆逃げた
誰もいなくなった場所に戻って来たカウザは一塊の石を前に佇んでいる
「我はこれ以上この石を増やしてはならぬと、法を掛けた」
(我は死ぬ訳にはいかない、あの風を止めるまでは…)
石の周りを土壁で囲い洞窟を作って行く。
その間、カウザの側に四体の生物が近寄って来た
『ビス・ザス・ジス・グス…………我といるというのか?』
宙に浮く四つの球体は一斉に顔を上下する
『仲間は避難したのか?』
コク コク コク コク
『…そうか』
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