マルー・クインクエ【遁走】・・・1
たたたたたた…はっ
鬱蒼と茂る草の中を軽快に走っていた少年の足が止まる
「この辺りにはいないですね」
「沼向こうの典型派と合流しよう」
「はい」
マスクをした全体派の三人が違う場所へと移動を始め動き出す
ガサ
草音にただおが目を向けると、大きな種を両手で持つハムスターがいる
「ただお、何かいるのか?」
「あ、いえ。ハムスターが食事してただけです」
「そうか」
気にせず三人は沼向こうへと歩いて行った
*
「皆の者、何かあったか?」
「ないんよー」
「べし」
典型派と合流。
空振りだったか皆首を横に振り手を左右に動かしている。毒沼付近の為支給されたマスクを装着していた
「ふむ、では猛獣区域近くに移動しよう」
「いいさん」
「はい?」
一丁の号令の元皆動き出すが、まいちがただおに声を掛け立ち止まる
「先程見たのはハムスターで間違いないんですか?」
「はい、ネズミでは無いですね」
「この辺りにハムスターはいるのでしょうか?」
「え」
聞こえたハギが二人の元へ
「いないんよ。ハムはも少し砂地の所いるん」
「……では私が見たあれは…」
「変化界の誰かでしょうか?」
ハギの元へ他の皆もやって来る
「それありえない。好き好んで沼まで来ないよ」
「変化の誰かだったら変化無しで出て来る!」
さやとはおんも変な事に口添え
「そうですね。変化はエネルギー使いますし、後ろめたくなければ堂々としてる筈です」
イソネも状況の違和感に疑問
「………」←ただお・典型派
「のの子、よ小若ハムなれるん?」
「知らんべし!」
「…若はなれますし、加護を受けた可能性は十分あるかと」
「………」
ガルゴの件を思い出すイソネ。
ただおは徐々に顔色が悪くなっていく
「戻りましょう!!」
焦ったただお筆頭に皆ハムスターがいた場所へと走って行った
*
「ウェル!!」
入口が蔦で塞がった洞の中へ少年が駆け込んだ
「小若! 昼間は出歩くなと」
「幻獣の所に行って来た! 見てくれ、これが“宝”だ!!」
「!」
心配するウェルの前に大きな種を見せ手渡す
「あいつら良い奴らだった! 美味い菓子も食って来たんだ!! もうウェルが行く必要は無い! すぐ変化から出よう!!」
受け取った種を食い入る様に見つめるウェルは信じられないと言う顔をしている
「本当にこれが?」
「そうだ! きっと貴重な木が育つんだ!! わしはその種見た事ない!!」
「…」
「…そうね。きっとそれが“宝”ね」
「ハナエン! 起きて良いのか!?」
額に濡れた布をあて、体調がすぐれないハナエンは、ずっと横になっていた
「ええ。ウェル、小若が危険を承知で貰って来たのです。きっとその種がパーテの一族が守ってきた宝なんですよ」
「…そうだな……夜、出よう」
「おお!」
ハナエンに諭され、どこかで引っ掛かる感じを受けていたウェルだが、見ていた種を懐にしまい受け入れた。
小若もやっと脱出できる事に両手をグーにし喜ぶ
「ハナエン、それまで横になっておれ!」
「…そうさせて貰うわね」
「今、水を汲んでくる!!」
布を袋状にし、小若は急いで洞内に流れる川の所へ駆けて行く
「ハナエン、ごめん。すぐ変化を出よう」
「いいのよ。私だってパーテの一員ですもの、宝の事は皆と同じく分かってるつもりよ」
力なく笑うハナエンにウェルは申し訳なく思い、側に座ると見守った
顔を綻ばせ小若が鼻歌交じりで水を汲んでいると、ある音に気付き壁を耳に当てている
*
――夕方
「ダメですね。常に動いてる様でダイヤ君位置付け出来ないです」
小若に付いて行ったダイヤの確認が取れず、四体がジンホウを見ている
「ダイヤがいる事は確かなんだろ?」
「ええ」
「外出てダイヤがいる場所へ行くぞ!」
「えー」
いざないが立ち上がり他も動こうとしたが、ジンホウは座ったままだ
「…んだよ」
「変化界歩きたくないなぁ。僕そんなに耐性無いし、暑いです」
「虫刺される訳じゃねーんだ、脱げばいいだろ! そもそも着込みすぎだろそれ」
変化界にも関わらず、ジンホウの服装はコートにスカーフと何処にいても同じ格好にいざないは呆れて突っ込んだ
「仕方ないですね。プリセプに従いましょ」 ぬぎぬぎ
「プリセプ言うな!!」
諦めたジンホウはコートとスカーフを取り、しっかり閉じていたシャツのボタンも外し始める
「…」
れいりが物珍しそうにその様子をじっと見ていた
「もう少し外します?」
びくっ
「へ!? いえ!! その…あのっ~~~……ごめんなさい!!」
二つ目を外した頃、視線に気付いたジンホウが尋ねるが、ハッとしたれいりは自責の念に駆られ反対側を向き頭を抱え蹲った
〈ひ~~~ 私は何てことおおおお〉
「……」
「プリセプスがまだ治らぬ物もあるな」
「お待たせしました」 くすくす
喚くれいりに淡々と言うソルムと呆れるいざない
「ビイス、又ねー❤」
ヴォン
ビイスが手を振り皆を送る
「ダイヤ君、お願いします」
入口に着くと早速ダイヤが先に飛び出しいざない達が走り出した
ピッ
「ただおっ いたけど見失った!?」
いざないがただおに連絡を取る
「今どこだ………そっち方面でいい! 岸も固めといてくれ!!」
手短かに話を済ませ、いざない達はただお達と合流するべく足を運ぶ
〈ジン、大丈夫ー?〉
〈ええ〉
「大河から逃げるかもしんねー、急ぐぞ!!」
いざないの後ろを走るがジンホウの足取りが重い。れいりに至っては皆の遅れを取りどんどん差が開いていく
「ダイヤくーん、一体来て下さーい」
呼ばれたダイヤがジンホウの元へ
「追い付きますのでいざない君先行ってて下さい。ダイヤ君、いざない君のフォローお願いします」
「…元々マルーじゃねーし、いーけど」
棄権したジンホウがいざないに手を振って見送った。いざないと三体はどんどん小さくなっていく
「変化界は体力の消耗が桁違いです」
ハンカチで汗を拭きやれやれと一呼吸
「れいり君もゆっくり行きましょう」 もう夕方なのにこの暑さ
「はい」 はーはー
汗が止まり片手で首元をパタパタ扇ぐ頃れいりが到着。
いざないを除き、四人はその場で休憩となった
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