マルー・クインクエ【遁走】・・・2

「霧ですね」
「川あって大河近いから出やすいんよ」
川近くに来た全体派と典型派は、森を白く覆う霧に視界の悪さを感じていた
「団長殿!」
「おお、どしやか。岸はどうした」
風切り派がやって来る
「波が荒れてますと。船が出せる状況で無いと言われ応援来たとです! 風切り派五人は見張っとります」
「そうか、ではこの辺を頼むとしよう」
「道沿いに村あるけどあたい達見てこよっか?」
するり さやが人の手が入った道を指差し、その方向を見てコクイ シブキが頷く
「某共が行くとです! 典型派はこちらで良いとでしょう。皆!」
「はい!」
どしやと風切り派員三名が村へと向かった

ザザッ
「ししょ――!!」

「いざない!」
草を掻き分けいざないが合流
「本当にこの辺にいるのか?」
「間違いないっす」
『……』←ダ
「波が荒れており大河は渡れんそうだ」
「そうすか」

ぴゅー

いざないの前で停止していたダイヤが動く
「ダイヤ…! ししょー、こっちだ!!」
「皆の者続くぞ!!」
小さいダイヤが霧で見え隠れするのを見失わない様必死にいざないは付いて行く


――村
片側は谷底、もう片側は切り立った崖の山、前と後ろを十メートル丈の連なる丸太の柵で囲まれた村で聞き込みをしてた風切り派が入口付近に集合した
「どしやさん! 特に変わった事は無いそうです」
「そうか」
それぞれの報告で手掛かりが無かった為、どしやはこの場から出る事に
「それと、もう皆寝てるから声掛けないでと言われました!」
「…すぐ出るとよ」
「はい!」
「それと、ちゃんと門は閉めて出て行ってくれと言われました」
丸太の門をガラガラと開きながら、三人の忠告を聞いている
「…了承と」
いざ外へ出ようとした所、目の前に着替え中の上半身裸の女が立っていた
「し…失礼しましたと!!」
目が飛び出るほど驚いた四人は女を見ない様にして急いで村の外へと飛び出す。
着替えが終わった女は入れ違いに村の中へと入って行く
「開けといて」
「はい!」
門を閉めようと動かす風切り派は、人一人入れるくらいで動かすのを止めてから離れて行く
「びっくりしました…村の人がまだ外いたんですか。変化の人は開放的ですね」
「…そうだな」
動揺する四人は、すぐ側を霧と草に紛れて動く二人の陰に気付かないまま一丁達の元へと歩いて行く。
開いた門から手招きする女に気付き二人はそのまま村へ入って行くと、門をしっかり閉じていた


「どしや! どうだった!!」
「村には怪しい者はおりませんでしたと」
「そりゃ変だ、ダイヤが行こうとしてる」
村の前までやって来たいざない達は、ダイヤが村を見て臨戦態勢である事に疑問を持ちそのまま走り出した
「とにかく俺は行く!」
「副団長殿! 皆寝てるとよ! 騒音だめと!」
ピタっと動きが止まった
「門開ける時音出ます。それも大音量」
「乗り越える!!」 だだだだ
「!」
内容に何とかなると再び走り出した
「越えられる者だけ付いてくるんだ、静かにだぞ!!」
「べし!」
「あーい」
全体派、のの子、るいこが先だって村へと進む
「某は重みで軋むとです、こちらで待ってますと!」
「うちらもいるん~」
身軽な者、翼がある動物に変化出来る者以外は村の前で見送った


反対側の門では音が鳴らないよう静かに開ける女(ウェル)の手があった。
ニ十センチくらいの隙間が出来ると後から村に入って来た二人が外へと出て行く
「ハナエン、出たか!」
「ええ」
最後にウェルが出ようとしたが、気配に気付くとその場に留まる
「小若、ハナエンを連れて先に行け」
「ウェル!?………分かった!」
ウェルの意図に気付き小若はハナエンを連れ先に進む。
ウェルは懐から数枚の葉を出すと火をつけ辺りにばら撒いた

モクモクモクモク

「何だ? 煙!?」
「ぬ!?」
霧とは違う燻った臭いに追って来たいざない達は立ち止まる
「これ幻覚のはっぱー」 きゅ~
「コクイさん!!」
ツバメに変化していたシブキがもろに煙の影響を受け地面に落下
「皆さんマスクを…」

「スランベイ!」
ブア~~

「!!」
バタバタバタ

「皆さ…」
マスク装着に間に合わなかった者達が次々と倒れて行く
「ししょー」
「少しくらくらするくらいだ!」
体格の良い一丁は辛うじて持ちこたえた
「効かねー法でも弱らせりゃ効く…やってくれんじゃねーか」

「…お前混ざりか」

「!」
何も影響の無いいざないに気付き、ウェルは品定めするかの様に眺めていた
「ふ――ん」

「美女!!」
ぎょっ

頭の横から目をラブ化させた一丁が急に現れ驚いた。
その間、門の隙間からウェルは消える
「待ってくれ小猫ちゃん!!」 だっ
「ししょー、治ったんすか」
門に走って縋り付く一丁に唖然
「そんな気楽に目眩を起こしていられぬわ!!」 ガラガ…
「ししょー、音! 音!!」
「ぬ!!」

ピュルピュルピュル~~~すたっ

軽やかに門を飛び越え向こう側へ着地

「待ってくれ―――❤」 だだだだだだ

「…」
小さくなる足音を棒立ちで聞いていた
「いざない! 行くべし!」
「のの子! 助かる!」
「べし!」
ガルゴのの子がいざないを掴み飛び越える
「俺達は追うから落ち着くまでそこにいてくれ!!」
「…はい」
ガルゴになったのの子とるいこ、いざないと一丁が後に続き、煙の影響が無くなるまでただお達はその場にいる事に


「小猫ちゃ―――ん❤」 だだだだだだだ
「…」
一丁の声が近づくと、雰囲気を察知したウェルは咄嗟に足の動きを止め振り向いた
「ししょー、気を付けて…」

ぺろん

攻撃を仕掛けてくると思っていたいざないだったが、上着を捲り胸元を豪快にお披露目して来たウェルに驚き立ち竦む
「うおおおおおお! 何とベリーグッド形だああああ!」
素晴らしい光景に一丁は狂喜乱舞。
いざないは硬直、その後ろにいたのの子とるいこだけは平常
「もっと見たいか?」
「見たい! 大いに見たい!!」
「し…ししょー、罠だ…ししょー」

ばっ

「すばらしー!」
真正面を向くウェル。一丁に注意を促すが、いざないも目はしっかとウェルから離れず二人とも観客になっていた
「るいこ!」
「あい」
二人はほっとき、挟むように現れたのの子とるいこがウェルを捕まえにかかる

ボッ
「!!」

ウェルの足元から火が上がり、煙が舞い上がった
「ウェル! こっちだ!!」
煙を吸い込まない様ウェルから離れた二人の隙を見て小若が手を取り大きな洞窟へと入って行く。
一瞬だけ煙の合間から見えた小若の姿を驚いた様子でのの子は見つめていた
「洞窟に入ったぞ!!」
「――! 待つべしいざない!!」
入口の前に仰々しい綱と板がある事に気付いたのの子がいざないを止める
「その洞窟入ると罪人なるべし!!」
「どーいう事だ!?」

「どうやら禁忌扱いの洞窟ですね」

「ジンホウ!」
「ダイヤ君目指して直進したら谷底でしたんで、ソルムさんに連れて来て貰いました」
四人が合流、ジンホウはハンカチが手放せなくなっている
「――で、合ってますね。おきまりさん」
「べし! てんしん家が管理する続目洞べし、許可無く入った場合重罪扱いで逃げてもどこまでも追い掛けられるべし!」
「死にかけるって聞いた」
続目洞の噂を人伝で聞いた事があったるいこも危険である事を示唆する
「簡単には入れなさそうですね」
「じゃ、何か? 許可貰えって事かよ! その間にあいつら逃げるだろ!」
大きな板には『許可無く入った場合生きられると思うな』と書かれている
「その続目洞はどんな構造かご存知ですか?」
「自然に出来た洞窟で、いつの間にか場所が変わる聞いた事あるべし」
「迷路は定石ですか」
「……出入口はここだけか?」
「五・六あるべし!」
ふと、のの子達の話を聞いていたれいりは隣でプルプル震えて動く物体に気付き横を見た
「一丁さん?」
「…………レオ……回復してくれ」
煙を吸った一丁が両手を組み頬に添え、足は跪き目がハートのまま幻覚に陥って動けないでいた。時折『こ…こねこちゃん…』と言っている
「まだ中にはいるみたいですし、立て籠もった場合位置付けして貰い向かえば済みますが」

〈アンジェルサラス!〉 パァ

四体になったダイヤは洞窟をじっと見ている
「何にせよ許可は取っておいた方が良いでしょうね。位置付けの場合進入しますし」
「…ポンポン頭に話つけだと………行きたくねぇ…」
「うちは行かんべし!」
「怖いからいや」
凄い嫌そうな顔をするいざない。のの子とるいこは断固拒否

「ぬお! 小猫ちゃんが天使ちゃんに!!」 れいりちゃん!❤
「はあ…」
復活した一丁は❤の目は変わらずでれいりの手を握って大喜び

「敬遠されてますねぇ。そんなに怖いんですか」
「…ジンホウ、あんたが話つけてくれ……」
「えー、怖いんでしょ? 僕の話聞いてくれるかなー、やだなぁー」
「…」
そこまで嫌がってない感じを受けるジンホウに汗。
るいこは飴を舐めながら一丁達を眺めていた
「こういう時は物で釣るか、何か関心のある物とかでどうでしょう?」
ジンホウの提案に暫し考え後ろをちらり
「…………」

〈どうだれいりちゃん、特別幹部とやらは慣れたのか?〉
〈え…ええ、まあ〉
〈そうかそうか〉 うんうん

そこにはれいりの手を離さず話し続ける一丁と戸惑うれいりがいた
「……ししょー」
「ぬ?」

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