マルー・クインクエ【てんしん家】・・・1

「マルーの方ですね。お話は伺っております」
長い棍棒を持つ門番の間を通り、いざない達は板張りの廊下を静々歩いて行く
「おっきいお屋敷ー」
「さすがてんしん家、豪華です」
木造りで出来た渋みのある城の様な屋敷にれいりは目を大きくして天井や壁を見渡していた
「こちらでお待ち下さい」
客室へと案内され襖が閉まると、それぞれ適当な所に座り出す
「前もって言って貰ったお陰ですんなり入れましたね」
「夫人に言ってアポは取って貰ったからな」
これからの事を考えると気が重いいざないは顰め顔で沈んでいる


――しばらく後

「あ~~~…堅苦しい所まじ勘弁、体中痒くなってくる」
「プリセプなのに」
「中々来ないね」
落ち着きの無いいざないに笑うジンホウ

シャラ

「マルーが続目洞に入りたい等と言ううつけな行為、話次第で処罰も考える! さあ申せ!!」
出だし一発目で眉間に皺が寄り険しい顔のてんしん くいだが現れた
「おや、好青年ですね」 もっと怖いイメージでしたが
「しょっぱなからこれだ…」 めんどくせー
ぐるり見回すとてんしんの表情が一変
「れいりではないか!」
素早い身のこなしでれいりの手を掴む
「てんしんさん、お久しぶりです」
「堅苦しい挨拶は必要無い! そうか! 輿入れする気になってくれたか!」
れいりを目の前に動きが超機敏。
いざない達の話す間を与えずどんどん進む
「すぐに部屋を用意させよう、出来ぬ間はワシの所で休めば良い! ひじお! よつじ!」
「え…あの…」
れいりを連れて客室を出ようとする。
ソルムは一連の動きを何気に見ていた

「れいりさん、私の隣へ来て下さい」

「はい!!」 ばっ
落ち着いた静かな声をしっかと聞いたれいりはてんしんの手から離れると、命令を受けた兵士の様に急いでまいちの隣にちょこんと並ぶ
「……」
れいりの動きにいざない無言
「……あの男も来ていたのか」
「若っ! 今は話を聞く事です!」
「そうです若!」
ずーんと柱に腕を置きヘコむてんしんに焦るひじおとよつじ
「なるほど、それでまいちさんも来てくれたのですね。てんしん家の若様はれいり君の事気に入ってるんだ」
「…」
楽しく笑うジンホウ。
先程の洞窟前では、追い付いたまいちにいざないからの説明を受けた一丁が『分かった!! まいち――!! 何としても死守するんだ!!』と怒りまくる様子をいざないは思い出している。
隣に並んでドギマギしてるれいりをソルムは無言で見守っていた
「興味本位でそこに入りたいって言ってる訳じゃねー、俺達が今追ってる地下の奴とあんたの息子があの洞窟に逃げ込んだんだよ」
気を取り直し本題に入るが、てんしんを前にしたいざないの口調はややきつめで話し合いをしたくなさそうな雰囲気が顔に出ている
「洞窟内で動かなくなった時点で進入して捕まえる作戦だからその前にあんたの許可がいるんだ」
「若! よ小若が!!」
新たな情報にひじおとよつじに動揺が走る
「何人入った」
「三人だ」 多分
「名は」
「…さあ」
「ひじお、まずは“くうの”の名を罪人帳に書いておけ」
「若!?」
てんしんの言葉にひじおが驚く
「…罪人って、あんたの息子だろ……」
「あやつは己から去った、もうワシの息子ではない」
「…」
対処の仕方にれいりは意表を突かれ言葉を失う
「ひじお、早う」
「………はっ」
罪人帳を取り出すとひじおは筆先重く指先が進まない
「厳しいですねぇ。“怖い”と言う意味が分かった気がします」
躊躇しては徐に罪人帳に書く様子をいざないは静かに眺めていた
「それでお前達は必ず捕まえられるのか」
「動かなくなった時点で確実に捕まえる」
いざないの言葉を受けてんしんが話し出す
「続目洞には至る所に移動する法陣が掛けられてあり、クーペレの巣窟でもある」
「…」
「ディックさんとれいり君が入ってたら危険だったかも」
内部の仕組みとジンホウの後付けでいざないの身が竦む
「それでも可能か」
「ああ、可能だ」
「…もしかしてその法陣、ミング・カピトが張ったのかな?」
思い当たる節のあったディックが会話に混ざる
「ミング殿と知り合いか」
「うん! えっと、私明なんだ」
リボンを解き、本来の美しく映える髪をしたディックが三人を見てニコニコしている。
驚いたてんしん達は目をパチクリさせていた
「失礼した! 明の貴人がおられたとは知らず、無礼を働いた事深謝する」
三人が頭を深く下げ詫びている
「…随分態度変わるな」
「まあ、変化界は明の力添えがありますから」
恭しく振舞う三人に唖然
「尋ねるが、明の御仁は男なのか?」
「うん。男だよ」
ディックの側へ近づくと、てんしんはしゃがんで前後左右周り鼻をひくつかせている
「明は男でも美味そうな匂いがする」
「え? そうなの?」
初めて知った事実にディックはぷち驚き
「名を聞いてもよろしいか?」
「ディックだよ」
立ち上がったてんしんはディックの腕を掴む
「ディック殿! 今宵はワシの部屋にて過ごさ…」

ぐいっ

「ジン?」
反対の腕を引っ張られ動きが止まる
「ディックさん、今日は僕と一緒に寝ましょう❤」
「うん❤」
笑顔で言い切るジンホウにディックは即答。
てんしんの手から離れると、ディックはジンホウと和気あいあいしだす

〈わー❤ 久し振りー〉
〈色々お話しましょう〉

「情人がいたのか」 ずーん
「若! 明は目で愛でるのが一番です!!」
「そうですよ若!!」
蹲ってヘコむてんしんを二人が必死で宥めている
「…匂いが良けりゃ男でも良いのかよ」
「積極的ですね彼、いざない君も見習って下さい」
「ほっとけ!!」
いざないとれいりは落ち込むてんしんに唖然
「ディック殿がおられるなら許可してやっても良い」
「!」
ヘコみ時間が終わると普段のてんしんに戻る
「但し捕まえた罪人はこちらに渡して貰う」
「待て! 一人暗の混ざりがいる、そいつだけはこっちで対処する!」
「お前と同じ輩か。暗はろくな者がおらん」
鋭く刺す様な瞳でいざないを見据える
「言われてますねぇ」
「……相変わらずの減らず口だな…」
ムッとしたいざないは顰め顔

「そうかなぁ…?」←デ・れ

「その一言で癒されました」
頭の周りに『?』が飛び交うディックとれいり。
二人のぽわぽわに場の空気が和んだ

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