マルー・クインクエ【てんしん家】・・・2

「罰し方次第で渡してやっても良い、どの様なやり方だ」
「監視付きの牢生活だと思うが、詳しくは知らねーな」
「ぬるい! 渡せぬ」
「渡したってあんたらの手に負えるとは思えねーけど? 地下にいた事すら気付いてなかったんだろ、あんたら」
話し合いが立て込み始め、れいりは戸惑う
「ほう、ワシを愚弄するか、赤目の男」
「あんた程減らず口じゃねーよ!!」
てんしんといざないの沸点が上がり出し一触即発になりかけた
「失礼、ではどの様な罰でしたら納得されます?」
間に入り、不穏な空気を遮るジンホウ
「逆さ吊り、鞭打ち千回、引き摺り回し、磔、二十日間食事無し、寝る事も許さぬ」
「死ぬだろそれ!」
〈え!?〉
後ろでれいりがギョッとした
「それで生きてたら釈放だ」
「いざない君、出来そうです?」
「出来るか!!」
真面目に聞いてくるジンホウに突っ込む

「拷問か」
話の中身にポソとソルムが呟く

「なら渡さん」
「……」
平行線になり話が進まない
「…一応参考までに。ソルムさんはどの様な拷問思い付きます?」
ソルムの呟きを拾っていたジンホウが振ってみた
「水責め、火責め、両手足を折る、毒水を飲ます、切り取っても良い」
「ダメ!!!」
淡々と恐ろしい事を言い続けるソルムに待ったが入る
「絶っっ対ダメだからねソルム!!!」
「プリセプス、何もしてないが」
「言うのもダメ!!!!」
「…御意」
きつく言われ口を閉じた
「…そうか、被験者になって貰うのもありですね」
「!」
「1/2のデータ欲しいと思ってたし、最後の手段はヘレデムなんですけど❤」
「…おい」
やりかねない人の多さにいざないは身が竦む
「その男(ソルム)の言う通り実行するなら考えても良い」
「するか!!」
一番危ないやり方を賛同するてんしんに怒

「痛いのやだなぁ…」 しゅん

「!」
涙ぐみうるうるするディック
「そうですよねぇ」
「おいっ ポンポン頭、ディックに免じて引き渡せ! 嫌がってんだろ!!」
今にも泣きそうなディックに寄り添いジンホウは困り笑い
「いかにディック殿が頼んでもそれは出来ぬ。これは我々の掟だ、覆す事は許されない」
てんしんの意思は固く譲歩する気は全く無い

「てんしんさん、お願いします」

れいりはてんしんの前へ出て深くお辞儀した
「何とか罰の良い方法無いですか!? やっぱり私も痛いのは嫌いです」
れいりの辛そうな顔を真摯に見つめる
「分かった。れいりがワシの食いも」
「れいりさん、こちらへ」
「はい!!」 びゅん!
秒を切る速さでまいちの元へ
「却下に決まってんだろ…」
〈れいり君の身のこなしが…〉
俊足の変わった動きをソルムは無言で眺め、ジンホウは抑えきれない笑いを堪えて体を震わせている
「その件は捕まえてから話し合いましょう。まずは許可を頂いてからで」
捕まえる事が先決とその後の事は保留とし、次へと促す
「何人だ」
「…ジンホウ、行けるか? ダイヤいるし」
「ええ」
「あと、さんぼーちょー」
「はい」
いざないの人選が始まった
「ディックさんとれいり君は」
「…クーペレいるから入らねー方いいと思う」 特にレオ
〈へ?〉
いざないの呟きに首を傾げる
「法陣の対処法はどうしましょう、ディックさんいると助かりそうですが」
「移動だけだと私何も出来ないよ❤」

「…じゃ、三人だ」

「よつじ」
「はい」
決まった人数分の札を手に取ると、てんしんはキツネに変化し足の裏に墨を付けペタペタと押していく
「ワシの足紋だ、終わったら返しに来い」
出来た札を払い飛ばし、受け取ったいざないは二人に渡す
「足形ですか」
「かわいー❤」
眺めるジンホウの横でディックは目をキラキラさせた
「……」
丸みを帯びた形の良い足形。当然見えてるれいりも目が離せずに顔を赤らめる

「あの…てんしんさん」

まだ変化を解いてないてんしんに急いで声掛けし、袋帯からメモ紙を取り出した
「この紙にペタンと…」

「……」
ペタン

「ありがとうございます!」 わっ
貰ったれいりは喜んで大はしゃぎ
「いーなー、私も欲しー」
「ディックさん、はい」
ジンホウがディックに紙を渡す

ペタン

「わーい、ありがとー❤」
可愛らしい足の形にディックもご満悦
「若! 足紋をそんな簡単に…!!」
「良い、普通の紙だ。何の効果も無い」
変化を解き、狼狽えるひじお達を軽くいなす
「二人の趣味が増えそうです」

〈かわいー❤〉
〈この形いーよね❤〉

紙を眺めてはしゃぐ二人を微笑ましく眺めるジンホウ。いざない達は遠目で見ている

ササッ
「若! 五つの出入口は警備隊配置済みです!」

「マルーもいるから争いだけは避けてくれよ…」
屋敷を見回る一人が客室にやって来ててんしんに報告し、すぐ自分の場所へと戻って行く
「ダイヤは」
「それがすぐ動いている様で、夜中だと言うのに…粘るしか無いですね」
コートのポッケを覗き、変化の無いダイヤ達の確認をする。ダイヤも又ジンホウを見ていた。
そのやり取りをてんしんが目で追っている
「さて、出るか」
「真夜中の変化界はいささかスリリングです」
「しゃーねーわな、何も用意してねーし」
半分嫌、半分興味を覗かすジンホウ。いざないも諦めモードで廊下へ出て来た
「ディックさんとれいり君はマルーに戻って下さい」
「え…でも…」
「ジン、一緒に寝ないの?」
「あ…そうでした」
別行動になりかけた為ディックは尋ね、ジンホウも戸惑った
「お前達はすぐ行ける術でもあるのか」
「はい」
てんしんに声を掛けられ振り向く
「アルチ、空いてる部屋に連れて行け。そこで待機してれば良い」
「はい」
「…」
客室を整えに来た女中のアルチに言いつけ、てんしん達は奥へと消えて行く
「親切な所もあるんですね」
「……何も裏はねーな…」
「こちらへ」
てんしん達の後ろ姿をじっと見て様子を窺ういざない。
アルチが歩き出したので六人は後に続いた
「まぁ、彼の性格は実直、真面目、頑固なタイプでしょう。裏は無いと思います」
「意外と諦めも悪ぃーよな」
「合っております」
二人の見解にアルチは素直に答えていた

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