マルー・クインクエ【三人】・・・1
――続目洞
ヴォン
「くそぅ…また洞の中か」
法陣に入るも出た先は仄かに明るさがある洞窟の中だった
「小若、この洞窟は何なんだ?」
「続目洞と言うて、十になったら跡継ぎを決める為に入らねばならん所だ」
歩く度足音が奥に吸い込まれ、先の見えない道のりを延々と歩いていく。
よ小若は子象へと変化し、その背にはハナエンが座っていた
「二人の兄者は済ましてる。もう一人は来年だ」
天井では異動物と化した翼を持つクーペレが舌をチロチロ出し入れし飛び交っている
「その中で早く出られた者が次の試練を受ける事になっている」
ぐるるると腹の虫が鳴り、消耗が激しいよ小若はしょんぼりとし足元がおぼつかない
べし べし ぶち!
「何も食わないよりは食った方が良い、小若」
「…そうだな」
ウェルは飛んでいるクーペレを気絶させ串刺しにすると火を付け焼いていた
「小若、私は歩きますよ。元に戻った方が」
「ならん! ハナエンはもう限界まで来てる!」 草が良いが仕方ない
ハナエンの言葉を制し、ムシャムシャと焼きあがった物を無理にでも口の中へ押し込んだ
「小若、あったぞ」
「よし! 次こそ外に出るぞ!!」
ヴォン
*
客室よりもこぢんまりとした室内には、アルチが用意した膝掛けや飲み物、菓子少々が置いてある
「ダイヤ君に変化が見られるまで休みましょう」
「ああ」
「ジン! じゃ、一緒寝よ❤」
「はい❤」
ディックが膝掛けを手にし、ジンホウを連れいそいそと角の方へ
〈わーい❤〉
ジンホウをディックが包む様に抱え壁にもたれ掛かり喜んでいる。
素晴らしい光景にれいりは開いた口が塞がらず見続けた。いざないは脱力
「逆だと思いました?」
「はい!…いっ、いえ、あの…」
れいりは予想外の関係に素直に言ってしまいすぐ言い直す
「ディックさんもれいり君もぬいぐるみ抱いて寝てますし、自然とそうなりますね♪」
「あ…そっか、そうでした」
ディックにとって一緒に寝る時のジンホウは、ぬいぐるみ的存在であった事に初めて気付いた
「すみませんディックさん。体洗いたかったんですが、汗かいたし」
「いーよ。私ジンの匂い好きだし❤」
「ディックさん❤」
甘い雰囲気が漂いイチャつく二人に驚いたれいりは持っていたお茶が足元に零れ焦って拭いている。いざないはもう何も突っ込めない
「そう言えば私良い匂いするの? 分かんないなー。れいりは良い匂いなの分かるんだけど」
「そうですね」
「!?」
ディックの何気ない疑問にれいりは再驚いた
「てんしんさんも言ってましたが、明は男女共擽られる様な良い香りするんですよねー。取り込んだ毒と関係ありそうです」
「そうなんだ! 知らなかったー」
「まいちさんもそう思いません?」
「はい」
「!!」
普通に返事するまいちにれいりは再々驚いた
「ソルムさんも気付いてるかとは」
「…良く分からぬ」
「おや」
曖昧に返事するソルムに楽しげなジンホウ
「“当然”いざない君はご存知でしょう?」
「…………ま、籠るからなー。特に食いもんのニオイ」
やっぱり振ってきた事に身構えたいざないは悪口が出た
「ムキ!」
鬼顔でいざないを見るがいざないは違う方を向いている
「なるほど、いざない君には食欲がそそるんですね❤ ついでにれいり君も食べちゃいたいと」
「何でそーなる!!」
含みのあるジンホウの笑いにいざないはびっくり
ガチ
腹部に重圧
ギリギリギリギリ
ありったけの力でれいりはいざないを後ろから締め付けた
「ま……まて………」
ギリギリギリギリギリ
「んな事で…体力削られる訳には………レオ…」
締め付けが加速
「……………おぇ…」
「副団長、私達が動き出したら三人にはマルーへ戻って頂いた方が良いと思います」
お茶を飲み一息吐くとまいちが一言
「そうですね。こちらに来るとも限りませんし…ディックさん、寝ちゃいましたか」
見上げると、あどけない顔で寝息を立ててディックは眠っていた
「すみませんれいり君、ソルムさんにお願いして頂けますか」
「はい」
素に戻ったれいりは手を離し、空気が戻ったいざないは前屈みで肩を大きく上下している
さらに数時間
「まだ動いてんのか…」
「その様です。スタミナありますねぇ」
それぞれ座って出方を窺うも、依然捕まえるタイミングが現れず、いざないは気怠げだ。
れいりは膝掛けを毛布代わりにし、欠伸をしている
アオーン オオーン アオオーン
「犬の遠吠えか、んな真夜中に」
暗闇から聞こえる鳴き声に怠さが増す
「違かったりして」
ジンホウの何気ない別解釈にいざないは立ち上がる
「ちょっとトイレ」
「今は任務中です、副団長」
ぎくっ
そそくさと廊下に出ようとするいざないに待ったが入った
「いざない君、遠吠えですよ。きっと」
「確認しねーと分かんねーだろ!!」
「副団長」
「…」
再び注意され無言
「これに関しては本当素直だなぁ♪」
ジンホウは楽しそう。
れいりは目が据わり呆れていた
オオ―――ン
(すっげ気になる…)
「…」←れ
遠吠えが聞こえる度、いざないはソワソワして落ち着かない。隣にいたれいりは細目で冷ややかだ
ぴょこ
四体がポッケから出て来る
「位置付け出来たか!」
「…いえ」
ダイヤは左右に数回振ると同時にいざない達は気配を感じ取り立ち上がった
「何故かこの屋敷にいます」
「六個目の出入口はここか!」
「行きましょう」
襖を大きく開け三人は飛び出した
「俺は混ざりを追う!」
「僕はダイヤ君ですね」
「さんぼーちょーもジンホウと頼む」
「はい」
急に周りが慌ただしくなると、膝掛けを抱き枕にして(ジンホウが替えていた)寝ていたディックも重い瞼が開く
「副団長、くれぐれも遠吠えの方には行かないで下さい」
ぎく
「………うす」
〈釘刺されてます〉
二手に分かれ、いざ向かう先が遠吠えの方向だった事にまいちが念を押す
「プリセプス、戻るのか?」
「…」
三人になった部屋でソルムが尋ねる
「…どうしよう……洞窟でなくここに現れたんだよね……」
膝掛けを片付けディックがれいりの所へ寄って来た
「ディックさんは戻ります?」
「うーん、皆いるならいよっかな」
「はい」
この場に留まる事に決まり、そのまま室内で待つ事に
「ソルム、混ざりの人どっちにいるか分かる?」
「向こうだ。防衣は一切身に付けてない」
廊下に出て混ざりがいる方向を指差す
「…いざないは反対方向に行った様だが」
「あの大魔王……!」
遠吠えの方向に行った事にれいりは唖然。
ジンホウも気付いていたが笑って見なかった事にしていた
「いざないなら問題ないだろう」
「……」
捕まえる事には問題ないが違う意味での問題ありで当惑するれいり
「捕まったらおしおきされるんだ………」
悲しそうな顔をするディックに同調し、れいりも眉が下がりしゅんとした
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