マルー・クインクエ【三人】・・・2
「……………よもや…屋敷に出るとは……」
移動先が見覚えのある建物だった事に、真っ青になった小若は全身震えていた
だっ
急いで引き返し法陣を踏む
「――! 動かぬ!!」
が、反応が全く無い
「一方通行の様だ」
たたたたっ
「ウェル達は向こうへ行け! 人が少なく手薄だ! そこから外へ出ろ!!」
「小若は!?」
見張りがやって来る足音が聞こえ、変化を解いた小若は二人を細道へと促す
「わしはあやつらを撒いてから出る」
「後で!」
「おう!」
ウェルとハナエンは建物の間にある道を走って行く
ばっ
「よ小若!?」
二人の見張りの前に姿を晒すと踵を返し屋敷の中へ入っていった
「よ小若、お待ち下さい!!」
「よ小若!」
とある部屋に潜り込み、畳の一枚を剥がすと床下へ
〈よ小若ー〉
小さくなる声を聞きながらどんどん先へ進む
〈ここから先は入れぬ〉
〈急ぎ若に!!〉
追い駆けていた見張りは立ち止まり、てんしんを探しに行った。
小若は二人と合流する方へ足を進め、行き止まりになった角の床板を押し上げると、誰もいない床の間から身を乗り出す
「何やらうるさいネズミが潜り込んでる様だが、やはりドブネズミか」
小若の視界に、立って見据えるてんしんの姿があった
ばっ
一瞬頭が真っ白になり硬直したが、再び床下に体を沈め急いで柱の間を駆け巡る
ガッ ぐい!
「ちょろちょろとまあうるさくて敵わんな」
「~~~~!」
外に出ようとした時、髪房を掴まれ持ち上げられた
ぶんっ…だん!
そのまま投げられ垂直に立つ大木の幹に叩きつけられる
「若!! よ小若はまだ子供です!!」
「その仕打ちですとよ小若のお命が…」
「ワシの目にはネズミが一匹いるだけだ」
目の前で動く事が出来なくなり蹲った小若を冷酷な目で見続ける
「重大な罪を犯したネズミめ、存分に懲らしめぬとまたちょろちょろしよる。ホレ立てネズミ」
動かない小若の所へ近づく
「お前はそんな程度か、それともわざと動かぬか?」
どか!
「~~~~」
確かめる様に腹部を足で蹴られる
「…これは…いかに変化の人が強健でも危険ですねぇ……」
小若を追って来たジンホウ達が様子を窺っていた
「れいり君は…まだいるといいですけど」
「見てきます」
まいちが戻って行く。
ジンホウが小若を見直すと、四体のダイヤがある場所を見ていた事に気付く
(ダイヤ君…)
微動だにしない小若に容赦ない攻撃が当たる度、追尾していたダイヤが盾となり急所を守っていた
*
細道を進んでいた二人。途中ウェルは気配が近づいた事を知り立ち止まる
「追っ手が来た! ハナエンは下女に紛れて外に出ろ!」
「ウェル…」
「後で追い付く」
「くそっ 紛らわし――!!」
普通の遠吠えだった
気を取り直し、混ざりがいる方へ走って行く
「賊!?」 カチャ
「いや…俺はマルー…」
棍棒を両手で掴み身構える見張りにギョッとなる
「若の許可証!」
「失礼しました!」
「お…おう」
いざないが持っていた足紋に気付くと、武器を下ろし警戒を解く
〈よ小若が現れた!!〉
「何!!?」 ダダダダダ
「これ便利じゃねーか」
遠くからの声に全員走って行く。
いざないは足紋を見ながら安堵し、反対方向へ向かった
ドカ バタ バキ バタン
「いやがったな!」
ウェルが見張りを倒している所に遭遇。
いざないと目が合うと踵を返し急いで走り去る
「四人伸すとはやりやがる!」
倒れた四人を乗り越え加速した
わーわー わーわー わーわー
「…外が騒がしくなった……」
「うん…」
随分離れた場所にあった室内でも騒音が聞こえてきた為、ディックとれいりは廊下側の襖を見ていた。
気になったれいりはそーっと襖を開け外を窺うと、縁側で腰を下ろし辛そうに呼吸をする女性を見つける
「具合悪いんですか?」
「え!?」
声を掛けられ驚く女性
「え…ええ。少し疲れが…」
「じゃ、こっちで休んで下さい」
れいりは笑顔で女性の手を取り部屋へと連れて行く
「れいり? どうしたの」
「てんしんさんの所に来たお客様ですか?」 どうぞ
「え…ええ」
「疲れてるみたいなんで休んで貰おうと思って」
入って来た女性にディックも笑顔になり膝掛けを集めて整える
「初めまして、私ディック❤ ここで横になって」
「…ハナエンです」
流れに沿って女性も素直に自己紹介
「向こうが騒がしくてびっくりしたんですよね。すみません」
「そ…そうね」
「比較的こっち静かなんで、ゆっくり休んで下さい」
「…ありがとう」
「…」
二人でハナエンの介抱をする様子をソルムは静かに見ていた
「プリセプスに害が無いならまぁ良い」
〈休めば治る?〉
〈…はい〉
「どうかした? ソルム」
「………いや」
れいりはニコニコして『?』顔。
尋ねるディックにハナエンは気まずそうに返事している
シャッ
「れいりさんいますか?」
「まいちさん! 何かあったんですか」
「回復が必要です。すぐ来て下さい」
「――! 分かりました」
呼吸が落ち着き瞼が重くなりかけた頃、入って来たまいちの声にハナエンの目が覚める
「もしかして、てんしんさんの息子さん…!」
「はい」
れいりは飛び出し、まいちの後を追う
「まさか、おしおき…」
「…」
残ったディックとハナエン。
不安そうに語るディックの言葉にハナエンは動揺した
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