マルー・クインクエ【処罰】・・・1

「もう動かぬか、歯ごたえの無いネズミだ」
てんしんの足元には、体中打撲と傷だらけで全く動かない小若が俯せで丸くなっていた
「水を掛けよ」
「すみません、よ小若!」

バシャア

掛けられた水が体に付いた泥を流すも、現れた傷が痛々しく顔を覗かす
「これでも起きぬか」 ガッ
「若…その辺りで……」
ひじおとよつじはてんしんを止めようとするが、てんしんにその気は無い

「…」
ジンホウとダイヤはずっと様子を窺っていた

「若!」
ザザッ

「二人の罪人は」
見張りの一人がてんしんの元へ
「一人はマルーが追ってます。一人は捜索中です」
「見つけ次第逆さ吊りにせよ。混ざりも渡すな」
「はい!」
見張りに気を取られていたてんしんの足元で、小若の指がピクと動いた

ばっ もくもくもく

小若は立ち上がると、懐から丸い玉を取り出し三人に投げつける。
辺りは煙で充満し、三人の視界を遮った
「煙幕!?」
「よ小若、お止め下さい!!」
焦るひじおとよつじ

「させぬ! わしは二人と――…」
最後の力を振り絞り、小若は三人を目くらますと動き出す

バサッ

大ワシに変化したてんしんの翼が煙を振り払うと、煙が本殿の屋根近くまで昇る。
てんしんが翼で扇いでる様子を棟に留まっていた一匹の大きなフクロウが静かに見つめていた。
フクロウは五~六分そこにいたが、羽を広げ何処かへ飛んでいく
「よ小若!」
「どこへ…」
視界が開けると、小若の姿が無い。
ひじおとよつじが見回してる最中、木々の合間を走り回る小若が変化したハムスターがいた。
ハムスターは三人から距離を取り少しずつ逃げて行く

ガッ
「キュ!」

上から押し付ける獣の足。
キツネに変化したてんしんに容易に捕まってしまう
「まだ動けたか、馬鹿なネズミだ」
狩りをする肉食獣の眼光に変わると、捕まえた小動物は空高く放り投げられた

ガブ!
「チュ…」

放射状に落ちて来た獲物に鋭い牙が突き刺さる
「……」 ガチ!
キツネの瞳が一瞬歪んだ
「……………よ小若」
「何故逃げたのです…」
青ざめるひじおとよつじ。
噛まれた小若は大ダメージを負い、元の人型に戻るが意識は無く仰向けで倒れていた
「よ小若!」
「…生きて…おられるのか…?」
反応の無い小若に近づき狼狽える二人。
まいちの後ろを走って来たれいりは、倒れている小若を見つけ急いで駆けて行く
「私が回復します! アンジェルサラス!!」

ポゥ

れいりの回復が始まると、二人は離れ様子を窺う
「死んではおらん」
「!」
「そやつが悉く邪魔しておった」
てんしんが眉を顰め見つめる先にはダイヤの姿
「気付いてましたか」 さすがですね
ダイヤは出て来たジンホウの所へぴゅーと飛んでいく
「僕が言った訳では無くこの子自らの意志です。きっと良い子なんですね、小若君は」
「……」
戻ったダイヤは他のダイヤと並び、じっと小若の方を見ていた

パチ

「よ小若!!」
「ご無事で良かった」
間も無く瞼が動き目を覚ます
「どこも痛くない?」
安堵したれいりはホッとし具合を聞くと、小若は目をパチクリさせ心持ちがほんわかした
「臨終時、天女が迎えに来ると言うが、お前がそうなのか?」
「へ?」
小若の言葉にれいりは照れて戸惑う
「いや…生きてるよ、小若くん…」
「何!?」
「生きております!」←ひ・よ
「当たらずといえども遠からず」
「はい」
驚いて上体を起こす小若に力強く言い切るひじおとよつじ。
まいちはジンホウに同意している

「……!」
ばっ

鋭い視線を向けていたてんしんに気付き、小若は怯えれいりにしがみつく。
今にも泣きそうな顔をして真っ直ぐにてんしんを睨んでいた
「てんしんさん、やはり罰は施行するのですか? 彼にさせるのは酷だと思うのですが」
「掟は掟だ。ひじお、よつじ。準備に取り掛かれ!」
「若…」
しきたりを遂行させようとするてんしんに二人の動きが鈍くなる
「いいんだ、わしはとおに嫌われている」
れいりの膝に乗り、睨む目はそのまま、屈しない姿勢を見せながら小若は腹を決めている
「しかしお前、良い匂いがする。わしは離れたくない」
「え?」
ぎゅー、とれいりの胸元に顔を埋めて心地よい環境を堪能
「…逆さ吊りでは足らん様だな」
「!」 ぎゅー
怒りを向けられ、さらに隙間無くれいりにくっついた
「違う諍いが勃発しそうです。ひとまずれいり君、小若君抱えてこちらへ」
「はい…」
れいりが立つと小若も倣い立つが、ジンホウの所に歩いてる間も小若はれいりの体に巻き付き離れない
「まだ二人は捕まらぬか!」
「…は」
やって来た見張りを叱責
「若…三人分用意しました」
着実に仕置きの準備が進む事にれいりは気が気でない
「罰はわしだけで充分だ! 他の二人にする必要があるのか!!」
三人と聞き小若が抗議
「続目洞に無許可で入った事が罰になるそうです」
小若は驚きハッとした
「……知らなかったんだ! 二人のせいじゃない!! わしが…」
「弁明するなられいりから離れてせよ!! 見苦しい」
「~~いやだ!!」
「……」
子供っぽさが時折出る小若にてんしんは怒りを堪えている。
れいりは視線を落とすと、小若の服の隙間から覗く質の良い紙を見つけた
「小若君、そこに挟まってるの何?」
「お守りだ、じいに貰った」 ぴら
れいりに小さな紙を広げて見せる。
その紙を見たてんしん、ひじお、よつじの動きが停止
「おや、それは足形ですね。丁度三枚あります」
「じいと離れてても、じいが守ってると言って三枚貰った。三枚あるのは多い方が効果あると言ったからだ」
ジンホウはかがんで紙を見せて貰う。
小若は桜の花びらの様な足形を見える様に掲げ貰った経緯を語る
「と言う事ですがてんしんさん、この紙はどう見てもやはりそうですよね」
確認を取るジンホウ。
てんしんの表情がみるみる変わっていく

ばっ!

「…若! どちらへ」
「離れだ!」
怒りを含む勢いでてんしんは離れへ向かい二人も追った

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