マルー・クインクエ【処罰】・・・2
「…とお…どうしたんだ」
何が起きたか分からずてんしんの後ろ姿を見る
「その紙が許可証扱いになるんです」
「何!?」
「貰ったお守りが本当に守ってくれました。これで小若君も二人も罰せられなくて済みます」
「良かった…」
「全くです」
唖然とする小若にれいりは顔が綻び小若の体を擦っている
「ジン!」
「ディックさん、起こしてしまいましたか。すみません」
「ううん、平気❤ ハナエンが心配して一緒に来たんだ」
「ハナエン!!」
「小若…」
ディックと来たハナエンは不安に駆られ小若を見ると急いで近寄った
「すまぬ…わしのせいで…」
「いいのよ。覚悟は出来ています」
謝る小若に優しく微笑む
「どうやら彼女が一緒に逃げてた女性ですね」
「え!?」
「そうなの?」
驚くれいりとそこまでの反応を見せないディック。ハナエンは済まなそうに眉を下げる。
ふと、ハナエンを見ていたジンホウの表情が厳しくなった
「あなたは程ですね」
「はい」
「顔色が悪い、中毒症状を起こしてるかもしれません」
「!!」
「毒沼近くで生活してたのなら知らずに毒気を吸入していたのでしょう」 えっと
「ハナエン…」
小若は不安そうにハナエンを見つめる
「あなたは速やかに医療機関で治療した方が良いですね」
アタッシュケースを開け、ジンホウは目当ての物を探す
「れいり君、回復で彼女の自己治癒力を上げて欲しいのですが」
「はい! アンジェルサラス!!」
ポウッ
言われてれいりはすぐに法を放つ。
周囲が七色の羽に包まれたハナエンは、幻想的な光景に目が釘付けになった
「きれい…」
「そうだな。おまけに天女は良い匂いもするんだ」
「え!?」
ハナエンと一緒に並び法の中にいる小若も嬉しそうに語るが、れいりは再び出て来たワードに戸惑う
「小若くん…私の名前れいりって言うんだけど」
「そう言えばとおが言っておった。れいりだな!」
「明と程限定なのが残念です。はい、これを飲んで下さい」
回復が終わると、ジンホウは探してた薬をハナエンに手渡す
「ハナエン、ウェルは…」
「外に出ようとあっちの方向へ」
「動きが止まってます。おそらくいざない君が捕まえようとしてますね」
「副団長の所へ行きます」
「お願いします」
まいちがいざないのいる方向を知ると足早に向かう
「何で分かるんだ?」
「えっと、僕暗の混ざりなんです」
「まあっ 皆がいたらさぞ大喜びだったでしょうに」
「ウェル達と同じか!」
「種馬になるのはご遠慮します」
これまでにない驚きを見せるハナエンにジンホウはやんわりお断り。れいりは汗
*
辺りは暗く静まり音一つ聞こえない離れに、床を荒く歩く足音と柱にぶつかる襖の大きな音が聞こえて来た
「若! お待ち下さい!!」
「長はご就寝です」
「若!!」
シャッ
「耄碌ジジィめ、許可紙を簡単に出すで無いと前に言わなかったか!!!」
見張り達の制止を無視し、怒り心頭のてんしんは寝所で横になる長に矛先をぶつける
「今何時だと思うてる、非常識めが」
「この騒ぎで寝てる訳なかろう、たぬきめ!!」
敷布団を五枚重ね、高さのある布団で寝ていた長は、頭だけを傾け怒るてんしんを顰め面で見ていた
「全くうるさい倅じゃ。儂は孫が可愛いんじゃ、お前の様に頭が固い奴がおるから渡したんじゃよ」
起き上がる長。
背中は前に丸くなり、やや年を召した老翁は立派な髭を口と顎に貯え生きた証を見せている。
押せば倒れそうな体躯であるが、眼光鋭く人睨みで周りを屈服させる圧を感じさせる
「くうのは戻ったのか?」
「はい! 本殿の方におります」
廊下で肘を付くよつじに近づき音も立てずに外へと飛び出す
「そうかそうか。何ヶ月も屋敷を空け、さぞ寂しかったであろう。どれ、じいが迎えに行くとしよう」
しれっと通り過ぎる長に、てんしんの我慢が限界に来た
「そこまで耄碌しておったか老いぼれめ」 ポゥ
「若!!」
「さっさと隠居して長をワシに寄越せくそジジィ!!」
「お前の様なひよっこに儂の目が黒いうちはまだまだ渡せんわ! 儂を討てるくらいになってから言え!!」
若(キツネ)と長(フクロウ)のケンカが始まった
ズズーン ガラガラガラ
「え? 何!?」
建物が崩壊し、昇る煙に驚くれいり
「…とおとじいがケンカしてる……」
「おや、壮大な親子ゲンカですね」
「よくある事だが今日は一段と酷い…」
ケンカする二人を想像し、小若は身が竦む
「若様より強いんですか。さすがです」
「ほとんど決着がつかず引き分けで終わる事が多い。どっちが強いかは分からん」
「……!」
反対側の門の近くからも煙が出ている事に気付く
「向こうで煙が…」
「いざない君のいる方向です」
「――! ウェル!!」
「私行ってみます! 小若君は動かないで!! ディックさん! 小若君をお願いします!!」
「うん」
れいりは急いでその場を後に走って行った
「れいり大丈夫かな…」
「ソルムさんもいますし、大丈夫でしょう」
小さくなるれいりとソルムをディック達は見送っている
「れいり君が怒らなければ…多分」
今までのれいりを思い出し、ジンホウは笑う
「わしもやっぱり行く!」
「君はハナエンが心配するからここにいよ❤」
小若の進行を防ぎしゃがんだディックは目線を合わせニコと笑う
「……男か?」
「そうだよ❤」
「女の様な男もいるんだな」
ディックの顔を間近で見た小若はキョトンとし顔が赤い
「れいりと同じ良い匂いだと!? 本当にあるのか!!?」
「あるよ❤」
「信じられぬ!!」
大腿の付け根に手を置き確認する小若は非常に驚いた
「小若君、それはとても羨ましい行為です」
「…」
羨むジンホウを無言で見つめるハナエン
「お友達、きっと大丈夫だからね」
小若を抱きしめ膝の上に乗せる。
柔らかな雰囲気のディックを見て小若は泣きそうになり俯いた
「…お前がとおだったらなぁ……」
ボソと呟き顔を埋める
この記事へのコメント