マルー・クインクエ【終決】

――本殿

「ウェルとハナエンに会ったのは、腹を空かして外歩いていた時だ」
小若は今までの経緯を集まった皆に語り始めた
「わしの加護は“ゾウ”だから屋敷で出る食いもんだけでは足らず、毎夜外に出て飢えを凌いでいた」
「そっかー」
(のの子さんと同じなんだ…)
同情するディックとのの子との共通点に気付くれいり
「ウェルとハナエンはわしにたっぷり食い物を出してくれる。二人とも良い奴だ。わしも居心地が良くなって屋敷から出てしまった」
夜な夜な放浪する小若と出会ったウェルは地下に連れて行き、たくさん食事を用意する。
喜んで食べる小若を微笑ましく眺めるハナエンとウェルがいた
「まあ、彼女達には別の目的もありましたが」
「大きくなったら協力してくれと言われた。わしは構わんと言った」
「承諾したんですか」
「そうだ。こんなに食わせて貰えるんだ、礼はする」
ジンホウの言葉に素直に返事し頷いた
「まだ十才にもならないと言うのに…しっかりしてます。誰かさんにも聞かせたい」 誰かさんはまだ来ない
ぼやくジンホウにれいりは上を見て空笑い
「…ウェルとハナエンはもう会えなくなるのか?」
「…ハナエンさんは治療に専念して頂きますが、ウェルさんは二層に行く事になるでしょう」
「…」
悲しい顔で二人を見る小若をウェルとハナエンは静かに見つめていた
「…ですが僕も程の親を持つ身です。共にいる時間が短い分会えないのは辛いでしょう」
事情を察し伏せがちの目に
「あなた方二人が会う時が増える様働きかけてみます」
「本当か! ぜひ頼む!! 良い奴だなお前!!」
「ありがとうございます」
話が纏まりかけた頃、ボロボロになった長とてんしん、ひじおとよつじがやって来た
「お聞きしますが、小若君は長とは仲がよろしいのですか」
「わしとじいは仲良しだ! じいの所に行くと必ず食いもんをくれる!!」
近づく二人を見ながら小若に聞いてみる

「…ジジィ、あやつをそこまで甘やかしておったのか……」
「たわけ! 母もおらんのだ、当然の事をしてるまで」
聞こえたてんしんは隣の長にイラついた

〈副団長の所へ行きます〉
〈はい〉

「ボロボロですねぇ」
「…回復した方いいのかな」
てんしん達に背中を向けていた小若はてんしんがいる事に気付くと体が硬直し身構える。
いつまでもいざないが来なかったので、まいちは門へと向かう
「またケガが増えそうです。保留した方が良いでしょう」
「…はあ」
「ところで小若君」
てんしんと長は至近距離で睨み合い火花が散っていた
「?」
ジンホウは小若の耳元へ近づくと何やら伝えている


「じい!」
「おおっ くうの!」
「しばらく屋敷を空けてすまなかった」
「くうのが元気におるならええ、ええ❤」
睨み合いの二人を中断し、小若が長に飛び付くと、それに応える長は顔を綻ばせしっかと抱きしめる
「あそこにいる二人はウェルとハナエンと言って、わしの友だ」
二人に向け腕を伸ばし、長に紹介
「変化から離れてしまうから、会いに行く時じいと一緒に行きたい!」
「変化の外に行くのか、ほうほう」
「じいと一緒に旅するの、きっと楽しいだろうなあ」
キラキラした真っ直ぐな瞳で長を見つめる
「あい分かった! 何処へでも連れて行ってやろう!!」 おおよしよし
「じい❤」
長を頼る可愛さに一撃で陥落すると小若の頭をすりすりしている。
すぐ側で見ていたてんしんは全身を震わせ大いに怒った
「このタヌキジジィ! 変化の外を特に嫌ってたのは貴様じゃないのか!!」 ガァ!
「若!!」
「くうのと一緒なら何処でも変化じゃ」
「屁理屈ジジィめが!!」
キツネとフクロウの第二戦が勃発。
小若は長の手から外れると即座に逃げ出した

ギャーギャーギャー

「名演技です」
「…」←れ
パチパチと拍手するジンホウに親指を立て上手くいったと返事する小若。
大ゲンカを止めようとするひじおとよつじだが、全く聞こえず周りの梁や柱が壊れていく。
れいりはその様子を唖然として見ていた

         *

取り締まり隊と暗の兵が到着し、ウェルは拘束されたまま連行されて行く
「いざない」
「ああ」
結局本殿に行かなかったいざないはウェルの拘束を外さないとならないので、Tと一緒に行く事となる
「これで全て解決した様だな」
「はい」
全体派も集合し、連行されていく様子を眺めていた。
典型派と風切り派は先にマルーへと帰っている
「ん?」
取り締まり隊に囲まれヘリへ向かうハナエンを見た一丁の顔色が急変
「四十年前に失踪した“ゾノ=ハナ”!?」
「は!?」
法陣でウェルが移動する様子を見届けていたいざないだったが、一丁の大声を聞きびっくりして振り向いた
「まさか誘拐されずっと地下におったのか!!!」
取り締まり隊を掻き分けハナエンの前に勢いよく近づく一丁に周りがビビる
「そんな時期もあったわね。昔の私を知ってる人がまだいたなんて驚いた」
ハナエンは昔の事を思い出し自嘲気味に顔を綻ばせた
「うおおっ ベリーベリー感激だ!!!」
「……まじ本物じゃねーか!!!」 じー
食い入るように見てたいざないも確信しすこぶる驚いた。
本殿に行ってなかったので、ハナエンを見たのはここが初めてである
「これはぜひ詳しく話を聞かせて貰いたい」 年を重ねても美しすぎる!!
「ししょー、俺も…」

「…もろば、いざない」
ぎくっ

一丁に近づくいざないをTが止める。
ハナエンは取り締まり隊と共にヘリに乗って行ってしまった

バリバリバリバリ

「……」←一・い
〈Tに止められるのはよっぽどの事ですよ〉
無言で見送る一丁といざない。ただおは目を細め呆れている
「いざない! 後日サインを貰いに行こう」
「うす!」

「…いざない」

「…分かったって、T」
「…」←一
話し合いを止められ、いざないはTの所へ。
一丁は罰悪そうにヘリが飛び立った所を見ていた


いざないとTは法陣で、一丁達は送迎車に乗りそれぞれ帰って行く。
静かになった屋敷前では、木陰からくすくす笑うジンホウの姿があった
「彼女が“ゾノ=ハナ”だったとは気づきませんでした」 あー、おかしい
前屈みになり涙を堪えツボに入っている
「それにしても一丁さんの女性を見る洞察力が優れています。見習いたいくらいです」 帰りましょうか
笑いもある程度満足すると、ジンホウもダイヤと一緒に帰って行った

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