マルー・クインクエ【ゆるゆる事件】・・・1

ガラッ!
「団長殿!! 某に力を貸して頂きたい!!」

恐怖をはらみ血相を変えた『つちの どしや』が扉を大きく開け全体派幹部集合室へとやって来た
「どうした? 力仕事か?」
「これを読んで下さいと!」
震える手で一枚の手紙を一丁に渡す

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 かんこ まりも嬢は
キウド伯が預かっている。
 まりも嬢はつちの どしやのみになら
助けられても良いと言っている。
 と言う事でつちの どしや、
まりも嬢を助け出し潔く結婚すると良い。
 キウド伯は二人を祝福しよう。
             キウド❀
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「一方的すぎますと!!!」
「………」←一・い・た
一丁と、周りから挟んで見ていたいざないとただおは唖然
「無理ですと無理ですと、某絶っ対無理ですと―――!!」
「これはゆるい誘拐とみて良いのか?」
「ご指名ですね…」
「どーみてもかんこさん共犯だし」
どしやは大袈裟に体を動かし慌てふためく
「…してどしや。かんこ君はどしやにほの字だと言う事は皆周知であったが、お主はどうなのだ?」
「某には荷が重すぎますと!!!」
机に両手をつけ前のめり
「某が元でマルーに来て頂いた事は助かりましたと!…しかし……まさか気に入られるとは思ってませんでしたと!! いい殿ならいざ知らず、親も無くマルーで生きる某が資産家の令嬢を貰うなどあってはならんですと!!!」
自分の名が出て来た事に『え?』となる
「どしやさん、それはあまり気にしなくても」
「気にするとです!!」
「境遇に関しては分かったが、それ抜きでかんこ君をどう思っておるんだ?」 オレもまいちもおらんし
いつになく冷静な一丁が核心に迫る
「……」
「好みか?」
改まって考えたどしやは焦りが止まり落ち着いて来た
「…かんこ殿には申し訳ないとですが、あまり……」
「ではどんな娘が良いんだ?」

コンコンコン
「こんにちはー、いざないいますかー?」

「れいりちゃん!」
扉を叩きれいりが入って来ると、一丁の気分が高揚しラブ目と化す
「あ、つちのさん。こんにちは」
頭を下げるとどしやも倣いお辞儀。
ぬるくはあったが、室内の空気が違う事に気付く
「あれ? 取り込み中でした?」
「まぁ…取り込み中と言えば取り込み中」
「そう? じゃ、私だけ外行くね」
いざないに言われ、れいりは踵を返す
「何か欲しいのあったら買ってくるよ。食べ物限定」
「…ない」
〈団長…〉
途中で止まり要望を聞くも、いざないは一丁の鋭い視線の痛さに目を逸らし返事する。
ただおは一丁を諫めていた
「分かった。ではお邪魔しました」

「…」

どしやはれいりがいた場所をじっと見ている
「どしや! お主まさかれいりちゃんが好みだとか言うんじゃないだろうな!」
「違いますと!! こうです殿は副団長殿の彼女ではありませんとか!!」
「そうなのだ!! 何という羨ましい」 うう…
その場に居づらくなり戸惑ういざない
「どちらかと言えばこうです殿の様な可愛らしい方が良いですと」
「れいりさんが好みで合ってますよ」
顔を赤らめ言い直すどしやにいざないとただおは汗。一丁はハッとし驚いた
「違うとです! あくまでも“様な”とです!!」
「分かった分かった。だがそうなるとかんこ君も可愛らしいと思うのだが」
「違うとです!!」
動揺し、尚否定するどしやに一丁もヤレヤレ感が出ている
「ししょーの範囲広いから」 ロリ以外…
「どしやお主心が狭いの」 ぬ?
「団長殿が広すぎるとです!」
会話に付いていけないただおは棒立ち
「それに…某には夢があるとです!」
「?」
決意に満ちた顔で夢を語り出した
「小さくても庭付きの家に住み、可愛い奥さんから毎日見送られ、子供は三人。やんちゃですとが正義感のある良い子達ですと! 時にはケンカもしますとが、日々充実してるとです!」
どしやの脳裏には仕事に出掛けるどしやに手を振って見送る奥さんと子供三人、その間にはペットもいる
「ペットの名は“ジョン”とです!! 末っ子が拾って来たとです!」
子供が拾って来た動物は耳が尖り真っ黒でスレンダーな犬だ。『ヴァウ!』と一鳴きし、どしやを見送っている
「この夢を壊さない為にもかんこ殿とは絶っっ対に結婚出来ないとです!」
「…随分具体的ですね」
まるで実際にあるのではくらいの内容に三人は唖然として立ち竦む
「お願いします団長殿、何か良い方法ないとですか!?」
「どしやさん、この紙夫人経由で来たのか?」
「はいとです」
手紙を持ってたいざないが紙を指差し聞いてみる
「と言う事は依頼なんですね…」
「おざなりにも出来ないですと…」
落ち込んだどしやは再度手を机につき、がくーんと項垂れる
「ほったらかししてたらずっとかんこさんいんのか?」 逆脅迫文面

〈お茶です〉
〈恐縮ですと〉

「ただお、キウド伯とはどんな輩だ」
「発明の方なので詳しくは知りませんが」
まいちが持って来たお茶をどしやは泣きながら受け取り椅子に座る
「人形作りを得意としている事業をしています。それこそ単純な物から精密な物まで」
「ふむ」
(あいつら好きそうだ…)
二人のおとぼけ顔が頭に過り、微妙な顔のいざない
「そうだのぅ…まずは結婚の所だけでも変えて貰いに頼みに行かんとならんだろう」
「某恐ろしくて行けませんと!!」
恐怖でパニックに陥りかける
「ただおあたりどうだ? 交渉」
「私ですか!?」
驚いた後、声を詰まらせてしまい考える
「…すみません。一度に二家を敵に回しかねませんので控えます……」
「そうなってしまうか…」
ただおのお断りに一丁も目を伏せる。
じっと手紙を見てたいざないが違和感に気付く
「かんこさんも共犯かと思ったが何か違うみてー」 じー
「では本当に誘拐か?」
いざないの言葉に飲んでいた湯飲みの動きが止まるどしや
「ゆるいのは間違いないと思うすけど、キウド伯の前に情報集めた方良いかもっすね」
「よし、早速始めるか。どしや、何人協力者が必要だ?」
「四人お願いしますと」
「よし、分かった」
風切り派員には頼めない事情である為、どしやは全体派幹部四人にお願いする事に
「してるうりんちゃんとれいりちゃんも協力して貰わぬか?」 元は同じ濃艶派
下心見え見えの一丁は期待感を持ち皆に同意を求める
「協力要請は出来ると思いますが――」
ただおは自分のメモ帳を開き確認
「特別幹部の協力金がこうなります」
見せられたどしやはギョッとし目が飛び出しかけた
「四人でお願いしますと!!!」
資料は貰ったが、どしやは自分の必要な所しか見ない主義なので特別幹部協力金の事はさっぱりだった
「すっげ跳ね上がってんな…」
「はい。お二人とも戦力は申し分ないですし、れいりさんはソルムさんの力も借りる事が出来ますので妥当だと思います」
いざないも初見だった様で目点。
ただおは頷きしれっとしている
「妥当と言えるいい殿が羨ましいとです!!!」 夢が遠のくと!!
狼狽するどしやに戸惑うただお
「…まあ、レオも大分レベル上がったしなー。ある意味レオとソルムがマルー最強だろ……」 無自覚にせよ
「オレだったら迷いなく頼むのに」
「団長殿は楽天的すぎますと!!」
「そうですね」
どしやの突っ込みにまいちが同意していた

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