マルー・クインクエ【マヌイ統者】
少し前
「大会の初日、オレ様の周りがガラ空きになるから六人くらいオレ様好みのマルーの男を差し出せ!」
「お断りします」
派長室では際どいアーミー風のいで立ちをした統者が堂々たる佇まいで目の前にいる夫人に命令していた
「金払うって言ってるのにか」
「下心丸見えなのでお断りします」
「近衛が出てる間オレ様は危険じゃないか」
「取り締まり隊で充分です」
「いい男いないから却下だ」
「マヌイ統者が好みで決めないで下さい」
室内には派長の他、二人の近衛がいる
『分かった、こうしよう。お前の息子ともう一人いるだろう、オレ様は知っている』
「…」
扉の外では派長室に入る事を拒む人影。
人影は室内から聞こえる声を物音立てずに静かに聞いていた
『その二人でいい。一日渡せ』
『大いにお断りします』
話がまとまらず平行線
「おかち、お前がうんと言わない限りオレ様はここにいるぞ」
「帰って下さい」
「オレ様は諦め悪いの知ってるよな」
「…ええ、別名ハイエナですしね」
不敵に笑う統者に対し腕組みして威嚇する夫人
コンコンコン
「はい」
居座った統者をほっとき扉を開ける
〈頼まれた資料を持って来たんですが〉
〈申し訳ありません。ありがとうございます〉
統者の眼光が鋭く光った
「ではこれで」
「ジンホウじゃない!❤」 ぐい
早々に撤退しかけたジンホウの腕が統者に捕まり逃げ損ねた
「これは統者、ご無沙汰してます」
「聞いてよ、おかちったら酷いんだよ!」
逃げの姿勢はそのままだがやんわり笑顔
「お知り合いでしたか」
「ええ。時々発明から頼まれた物を届けに」
「そうだ! ジンホウがオレ様の警護してくれ❤」
扉が遠のき、どんどん室内へ引き摺られていく
「残念ですが先約がありまして」
「そうか、仕方ない。おかち!」
「お断りします」
「酷いだろ!!」
同意を求められるもひたすら笑顔
「それはそうと、料金発生してますが」
「そうだった。テーナ」
「はい」
テーナと呼ばれた近衛は懐から紙幣を取り出しジンホウへ渡す
「…ジンホウさん、料金発生とは何ですか?」
「仕事が疎かになるのを防ぐ為、僕に接触する度賃金を頂く事になってます。同意書もしっかり頂いてますので」
「…」
ジンホウの腕を離した後も傍に寄り添う統者は幸せそうにニンマリ。
理解した夫人は冷たい視線を統者に向ける
「マヌイ統者が堕落しており恥ずかしい限りです」 はぁ
「おかちの口の悪さに比べりゃ可愛いもんだ!」
「設定金額はどうなっていますか?」
「えっと」
アタッシュケースを開き常に持ち歩いていた同意書を夫人へ。
夫人は内容を把握すると、一緒に見てた派長と共に凍り付いた
「……ジンホウさん、今まで統者からどれくらい受け取ってます?」
「ざっと百でしょうか」
「あなたに恥と言うものは無いのですか!」
「全然」
鬼目の夫人が統者へ向くも統者は全然応えない
「それにこれは一般人から集めた資金では!!?」
「まさか、ポケットマネーに決まってんだろ」
『な?』と聞くと『はい』と頷く近衛。
ジンホウは苦笑い
「…そうですね。報酬の他、私が作る同意書にサインし彼らがやっても良いと承諾した場合、警護にあたる事を許可しましょう」
「本当か!!」
夫人が折れかけた事に喜ぶ統者
「みちびきさん、しばらく統者のお相手を」
「…うん」
「ジンホウさん、少し助言を頂きたいのでこちらへ」
「はい」
〈あっ〉
部屋から出て行く二人。
自然の流れでジンホウが離れた事に統者はショックを受けている
――別室
「私はマルー人員を守る立場にあります。私利私欲に陥ってるあのケダモノからあの子達を守れる同意書を作りたいのでぜひ良い案を」
使命感に満ちた意気込みでジンホウに助言を求める
「…何人ご所望でした?」
「六人と言ってましたが、統者が気に入る人員はそこまでいるか分かりません」
「二人は確定ですね」
「声掛けはしてみます」
「僕も側近ですし、守らないとですねぇ」
呆れを含む笑いで自分の同意書を広げどうしようか考え始めた
「軽めの触れ合い程度ならマルーの方が喜ぶ賃金で良いでしょう」
「問題はそれ以降――、統者にとっての弱点が良いと思います。何かありますか?」
「………」
難しい顔で腕組みする夫人にある事が浮かぶ
・
・
・
「よし! これでいい」
統者は二枚の同意書に自分の印を押す。
一枚を夫人が受け取り、マルー名簿の写しを統者へ渡す
「マルー人員男子の写真です。六人選んで下さい」
「承諾拒否した場合の補欠三人も別〇しておく」
「はい」
ガン見後〇を付け夫人へ渡すと立ち上がった
「用は終わった、帰ろう!」
「はい」
統者、近衛の後を追い見送る夫人とジンホウ
「ちゃんと読んで下さいね」
「分かった。後で読んで聞かせてくれ❤」
「はい」
ヴロロロロロロ
念を押すと統者は近衛に頼り、近衛も返事。
統者の乗る高級車は静かな音を立て去って行った
「読まないですぐ押すんですね」
「ええ、全て近衛任せです。良く統者が務まると常日頃思う謎です」
苦笑するジンホウと呆れて溜息する夫人
「相手がおかち夫人ですし、近衛の方も分かってらっしゃるんですね」 止めなかった所を見ると
「その様です」
再び館内へ入ると各々別れた
「ではこれで」
「お忙しい所ありがとうございました」
夫人はキビキビと派長室へ歩いて行く
「あっ ジン❤」
「ディックさん❤ 出かけてたんですか?」
丁度食事会から戻ってきたディックと出会う
「うん❤ れいりの家でご飯食べて来たの」
「そうでしたか、僕も行きたかったなぁ。残念」
「ジンが時間出来たら又皆で食べよってれいり言ってたよ」
「本当に? 嬉しいなぁ❤」
二人の会話がしばらく通路で続いていた
――統者邸
「何ぃ!!?」
同意書の中身を聞いたか、大声を出す統者がいた
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