マルー・クインクエ【イクシルミナス族・前】・・・3

「な…何だ!?」
「敵襲か!」
散乱するテーブルの料理、食器、飲み物。
原因を見つけた兵はインヴイに刃先を構えた
「……インヴイ、頑丈でもやっぱり…痛い…」
「何者だ!!」
プルプルするインヴイは兵の声に気付くと目を開く。
インヴイを囲む兵達の後ろを守られながらしれっとした目で見つめるプリセプス。インヴイは兵越しに視点を合わせた

(分かれ…た)

プリセプスを視たインヴイは、次々入って来る違う未来の出来事を瞳を大きくしながら確認していく
「アハハハハハハハ」
嬉しくなり大笑いするインヴイにビクつく兵
「分かれた! 分かれた」

(分岐した――!!!)
「アハハハハハ」

「分岐………した……」
涙目になり喜ぶインヴイ。
分岐した事を知ったフトゥは、口を両手で押さえ驚いている
「どうやら頭を打った様です」
「間者とも思えませんが……」

「アハハハハハハ」

「どうします? 捕まえて様子見ますか」
笑い続けるインヴイに困惑する兵

「プリセプス!!」

後ろから声が聞こえ皆振り向くと、瓶から零れた液体が湯気を出し周囲を溶かしていた
「これは…」
じゅうと言う音と液体を浴びた地面が黒く淀んでいる
「プリセプスの飲み物にだけ!?」
「プリセプスが飲んでたら今頃…」
いつも側にいるプリセプスの側近が目を見張り愕然としている
「料理長を連れて来なさい!」
「はっ」
笑い疲れたインヴイが顔を綻ばせながら上体を起こす
「動くな!」
「何者か名乗れ!」
「…あ……散歩してたら転んだ」
槍先を向けられ動きを止める
「その様な言い訳通じると思うか!」
「でもインヴイ何も持ってない、調べてもいい」
「では調べさせて頂きます」
「どうぞ」
回復してくれた側近の後ろから細身で褐色の肌をした女性がやって来るとインヴイを調べ出す
「何もありません」
調べが終わると、すぐ横から入って来た人物にインヴイはハッとした
「名は“インヴイ”と言うのか」
〈プリセプス!〉
目の前に現れたプリセプスにインヴイの顔が紅潮する

「インヴイあなたの髪と瞳好き!」

「…」
突然の告白にプリセプスは無言。
インヴイはときめく乙女となっていた
「プリセプスの質問に答えぬか!」
「あ、インヴィターレ言う。普段はインヴイ言ってる」
「変わった名だ。イン! 回復させよ」
「…」
プリセプスは戸惑う兵や側近の間を歩いて行く
「……どこかで会った事あるか?」 しゅお…
「そうか? インヴイみたいな人いっぱいいる」
「……そうだな」
あっけらかんと笑うインヴイにこれ以上何も聞かない側近
「イン様!! 料理長が賊に襲われ…すぐ来て下さい!」
「賊の数は?」
「三十はいます!」
「インヴイはここにおれ、後で対処する」
プリセプス筆頭、側近と兵が総出で建物内へと駆けて行った。
誰もいなくなった庭園で、インヴイだけ取り残されポツンと立っている
「フトゥ、帰ってて――。インヴイここにいないといけない――」
「ええ!?」
様子を窺っていたフトゥがびっくりした後、目を閉じ精神統一
「分かった、気を付けて――」
「うん」
戻ってくるのが視えた為、フトゥはそのまま帰っていった

数分後

「何だ、いたと言う事は賊の一味では無かったか」
「インヴイ賊違う。いろ言うからいた」
賊の対応が終わり戻ってくるプリセプス達
「崖の散歩という理解出来ぬこと以外はお前に助けられたと言うのは事実。褒美をやろう、欲しい物を言え」
プリセプスの言葉にインヴイは目を丸くすると笑顔になった
「インヴイあなたと友達になりたい!!」
「なっ…」
ギョッとなる周り
「プリセプスに対し何たるぶっそ……無礼を!!」
一人の兵が本音を言いそうになっている
「インヴイあなたに会いに遊び行く! 名前何て言うんだ?」
「一般の者がプリセプスに会うなど恐れ多い所業!!」
「プリセプス、この様な痴れ者の要求を聞く必要などありません!」
「ヴェレティクス」
「ヴェレって呼ぶ!」
「は!!?」
兵と側近が口を大きく開け卒倒
「いつもはどこにいる?」
「ずっと東、川辺に建つ城が私のだ」
「あの城!? 川向こうすぐアーツェ!!」
「睨みを効かすには丁度いい」
「分かった。そこ行けばヴェレいるんだね」
「大体はいる。それで良いか、出口は向こうだ」
「ありがとう!」
言われて出口へ歩いて行くと振り向き手をぶんぶん振った
「またね、ヴェレ!」
ご機嫌でインヴイは帰っていく
「よろしいのですか? 素性も知れぬ者を」
「変わった奴を置いておくのも何かの役に立つだろう」
常にプリセプスから離れない側近セクレタリウス以外の側近と兵達は固まっている
「飲料の出所を今調べています」
「予想はつく、“アーツェ”の誰かだ。放っておけ」
「承知しました」
ヴェレが踵を返し建物内へ向かうと側近達も付いて行く

         *

「ただいま――。どうした皆?」
戻って来たインヴイは皆の様子がおかしい事に首を傾げる
「さっき、コンピタルスの分岐が起きた!」
「誰かが分岐させたんだ」
「未来どうなった?」
話を合わせるインヴイだが、皆に理由を話してないフトゥは冷や汗
「ニヴスは無くならない!」
「本当は無くなっていた」
「これ以上は読めなかった」
「良かった!!」

〈良かったフトゥ〉
〈うん…〉

ニヴス存続に沸き起こる皆の喜ぶ声。
一人フトゥだけ戸惑っていた

この記事へのコメント